インターミッション とある婚約者たちの日常
「待って……!? 焦げてる匂いがするんだけど!?」
彼が慌てた声で言い、こちらへ駆け寄ってきた。そして、火を止める。
そんな彼を見て、またやってしまった、と私はため息をつく。
「ごめんなさい……。また……」
私は俯きながら沈んだ声で言った。
私は、料理が苦手だ。じゃあ、なぜ料理をするのかというと、ただ愛する婚約者の喜ぶ顔が見たいからだ。
といっても、まだ一度も喜ばせることなんてできていないのだけど。
私は、真っ黒になってしまったたまご焼きになるはずだったものを見て、さらに肩を落とす。
以前、料理が得意な友達に手順を教えてもらいながら、彼が好きだと言っていたたまご焼きを作るための特訓をしたのだが、結果はこの有様だ。
自身満々に「今日こそおいしいたまご焼きを食べさせてあげますからね!」と言ったのに、結局失敗に終わってしまった。
泣きそうです……。
そう思っているうちに、本当に涙が出てきた。
「気にしなくて大丈夫だよ。誰にだって失敗はあるさ」
彼は、優しく微笑みかけながらそんな私の頭を撫でてくれる。
「でも、一緒に暮らし始めてからまだ一度もおいしいご飯を作れていません……」
「本当に気にしなくて大丈夫……! たくさん練習してくれてるの知ってるよ?」
彼の優しさでさらに涙が溢れてくる。
料理下手が原因で破局したという話は決して少なくないと思う。
彼はとても優しい人であるため、私が料理下手だからといって婚約破棄なんてことはしないと思うけど、可能性はゼロではない。人間、限界というものがある。それに彼の周りには、常に彼を狙う魅力的な女性たちがたくさんいる。
それに引き換え、私はいわゆる箱入り娘というやつで、料理もできなければ、家事も手際が悪くていつも時間がかかってしまう。彼と生活し始めてから、自分がいかに甘えて生きていたかを思い知らされた。本当に迷惑をかけてばかりだ。
――私っていいところ何もないのでは……?
――このままでは、彼に愛想をつかれてしまうかもしれない……。
私は、焦燥感に駆られだんだんネガティブなことばかりを考え始めてしまっていた。
そんな私を――、
「また、自分のこと責めてるでしょー……?」
彼が優しく抱きしめてきた。
「だって……私、本当に迷惑をかけてばかりで……」
私は彼の胸に顔をうずめながら言った。
「迷惑だなんて思ってないよ。僕、頑張ってる君のこと見るのすごく好きだから」
彼は私のことを抱きしめ、私の頭を撫で続ける。
――ああ、本当にこの人は優しいな。私が見つけられない私の良いところをいつも見つけてくれる。
愛する人の優しい言葉で少し凍えかけていた心が温かくなってくるのを感じる。
「あなたは、優しすぎます……」
「ただ君のことが大好きなだけだよ」
私は、顔を上げ泣き笑いを浮かべる。
「私だって、あなたのことが大好きです……」
「じゃあ、もう自分のことは責めないこと! 僕が大好きな人のことを責めるのは、君自身でも許しません!」
彼は私の頬をふにっと掴みながら言った。
彼はいつもこうして優しい言葉を投げかけて私のことを安心させてくれる。本当に私は幸せ者だ。
「ふぁいっ……!」
頬を掴まれているため、うまく話せなかった。ちょっと恥ずかしい。
「よろしい」
彼は、そう言うと、私の頬から手を放してくれた。
「では、今日も一緒にお料理してくださいますか……?」
「もちろん……! 早速やろうか……!」
口元をきゅっと上げている彼の横顔を見て、私は、何年かかってでも、いつか必ず彼においしいたまご焼きを食べさせてみせる。そう改めて決心した――。
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