不慮の事故から意識を取り戻すと、江戸時代の町医者の娘〝お花〟に転移していた法医学者の主人公。転移した時代で、江戸を揺るがす、酸鼻をきわめる変死体の謎に挑みます。
お花は、検屍の手引書として当時実際に用いられていた『無冤録述』などに記載のある検屍手法に加え、現代の法医学の知識、さらには犯罪心理学やノンバーバル・コミュニケーションの知識を駆使し、難事件を解決に導いていきます。
現代法医学や江戸時代の捜査手法のトリヴィアルな読みごたえもさることながら、行動心理学を使い、関係者の身振りや身体反応から隠された心理状態を読み解いていくさまは、明日から人を観察するときに着目したくなる実用性も感じさせます。
時代小説を読み慣れていなくても、この作品の視点人物は現代人なので、かなり読みやすいと思います。短編連作という形式も、気軽に手をつけられていいんですよね。
また、クールで淡々としながら故人や弱い者の声を誠実に聞き、真実を探ろうと懸命に考え続けるお花と、そんなお花を軽んじず尊重する同心の源三郎は、信頼に裏打ちされた理想のバディ。実はお仕事小説としても読んでいて気持ちいい作品です。
(「謎解き+教養! 知的ミステリー」4選/文=ぽの)