今の私だったらもう少し違う結末だったかな

半熟たまご

今の私だったらもう少し違う結末だったかな


黒歴史公開と共に、当時どうすることも出来なかったやるせない感情を、みっともなく吐き出してみる。こうすることによって少しでも昇華されるような気がする。私が中学から高校1年生にかけて体験したこと。あまりにも若かった。今思い返しても情けなくて、消したい過去。


私が住んでいた地域には小学校と中学校が一つしかなく、一学年も計50名ほどしかいなかった。そのため、皆幼いころからの顔見知りで、グループはあれど全員顔を合わせれば話はする程度の仲の良さがあった。


そして私は中学三年生の時、同じクラスの男の子を好きになった。仮に彼を英太くんとしよう。中学最後の体育祭で活躍した英太くんを見て、小学校の頃とは違う体つきや顔つきになっていることを改めて意識したのだ。


今思えば当時の私は少女漫画にどっぷりハマった恋愛脳だったから、ただ恋に恋をしていただけなのだろうけど、あの時の私は「これが恋だ」と信じて疑わず、それはもう迷惑なまでにアピールをしまくった。そう、仲の良い友人(以下、雅ちゃん)を連れて英太くんの家に押しかけるほどに。


一つ弁明させてもらうと、狭い町だったため、同学年内ではほとんどの人の住所がバレていた。もちろん私の家の場所も。それを頼りに遊びに行ったり、来る人もいた。まだ子どもということもあって、それぞれが同級生の家に押し掛けることはあまり珍しいことじゃなかったのだ。……といっても、私がしたことの正当化にはならないと思うのだけれど。


とりあえずその話は置いといて、私は英太くんに熱烈なアピールをしながらも、周囲の人間にはバレてほしくなかったがために、学校での会話はそこそこに、lineや、放課後の時間を使って彼に猛アタックを仕掛けていたのだ。内弁慶だった。今にして思えば、当時の英太くんもよく嫌がらずに私に放課後や返信の時間を割いてくれたものだと思う。


そしてそんな日々が続いたある日、英太くんの近所に住んでいる同級生にの男子に、ついに私の行いがバレた。雅ちゃんと私、英太くんが家の前で駄弁っているのを見た彼は、英太くんに「お前、まとばか雅のどっちかと付き合ってんの?」と聞かれ、英太くんは全力否定したらしい。私もその男子とはそこそこ話す仲だったので、私はそいつから後日その話を聞いた。……事実だけど、もう鼻で笑うしかない。


しかもその男子はひょうきんというか、いわばスピーカーのような人間だったので、女子にまで、とはいかずとも同学年の男子に光の速さで私の気持ちが広まった。さすがに居心地が悪くなった私は、彼に猛アピールを控えるようになった。

そしてそれから数週間も経たないうちだっただろう。学年で一、二を争う可愛い子(以下、詩音ちゃん)が、英太くんによく構うようになったのだ。その時の嫌な予感といったらない。


詩音ちゃんは私と同じバスケ部で、運動部でありながらもお母さんが上品な人だからか、言葉遣いが丁寧で淑やかで、男子からの人気が非常に高かった。かくいう私も、人の悪口なんてめったに言わない詩音ちゃんのことを好いていて、部活内で一番の仲良しとまではいかなくとも、二人でストレスなく会話が続くくらいの仲の良さではあった。


詩音ちゃんは私が英太くんのことを好きなことなんて知らない。女子でバカ騒ぎしてる中で、一人上品に笑いながら楽しんでいる詩音ちゃんが、英太くんにかまう時は年相応に彼の筆箱を隠して追いかけっこをしたりしていて。それを見た私は何というか、モヤモヤが募った。


なんとなく、詩音ちゃんは英太くんのことが好きなんじゃないだろうか。と思った。だって彼女が遊び半分で男子と追いかけっこをするところなんてあまり見たことがない。英太くんはかっこいいし、詩音ちゃんは可愛い。それに二人とも頭が良くて、同じ高校を受験するというのを小耳に挟んだことがあった。私の席の近くの友達が、いい雰囲気の二人を見て「お似合いやんな」と言ったことがある。「わかる!それなー!?」なんて、わざとらしいテンションの高さで同意するしかできなかった。


私の方が先に好きになったのに、は言わなかった。だって私は気持ちを公にしてないし、英太くんに真っ向から告白したわけでもない。それに、私の顔面偏差値が英太くんとか詩音ちゃんに適うようなものじゃないってわかっていたから、余計に何も言えなかった。

それでも、詩音ちゃんに嫉妬したり、憎しみを抱いたりはしたくなかった。先でも述べたように、私自身詩音ちゃんのことが好きだったから。詩音ちゃんが仲良さげに英太くんと話すのを見るたびに、見なかったフリをして、そのくせ早く終われって念じて、部活ではいつも通りに仲良くしてくれる詩音ちゃんに安堵して。詩音ちゃんは私にいつも友好的でいてくれる。だから私も、彼女を恨むようなことはしたくない。そうやって言い聞かせて毎日を過ごしていた。


そんなある日のこと。塾が終わった時だった。当時、私達学生の間ではスマホを奪ってlineを盗み見ることが流行っていて(要は嫌がらせに見せかけたじゃれ合い)、一緒に親の迎えを待っていた同級生の男子(以下、ヒデキくん)と、いつものように互いのスマホを盗むための攻防をしていた。私が持っていたスマホがすっぱ抜かれたため、負けじと相手のスマホを盗んだ。攻防の途中に「俺、lineはロックかけてるから見られへんで」とドヤ顔をかましていたのを知っていたため、大した情報はないだろうが、ならばとメールボックスを開いてみた。そこで見つけたトップのメアド。詩音ちゃんのものだった。


詩音ちゃんはスマホではなくガラケーだったため、連絡事項がある時はメールでやり取りをしていた。私も部活関係で何度か彼女とメールのやり取りをしたことがあったから、そのメアドには見覚えがあったのだ。何を話してるんだろう、と思って一番上のメールを開いたのが運のツキ。

【それで、まとばちゃんは誰にでも秘密を話す口の軽さね(笑)あれはやばい(笑)】

という文言が目に飛び込んだ。心臓が止まったかと思った。見間違いかと思って上から読み直すと、確かにそれは詩音ちゃんのメアドで、ヒデキくん宛に送られたもので、本文には私の名前が書かれてある。静かになった私に気づいたのか、私のスマホのロックが外せないことに諦めたのか、君が突然私の手からスマホを奪った。「何やってんねん」と言った彼の顔は蒼白だった。恐らくメールの内容を見られたことに気づいたのだろう。私は何も言えず、ちょうどその後お互いの親が車で迎えに来たため、微妙な空気で解散となった。


家に帰って、ぐるぐる考えた。詩音ちゃんが、私の悪口を言っていた。ヒデキ君もきっとそういう話の流れで私のことを悪く言っていただろう。いや、本当に悪口なのか?だって、私の口が軽いことは確かに事実だった。秘密を共有してくれた優越感とマウントで、知らない人に教えてあげよう精神で気が大きくなってベラベラ喋っていたのだから。言われても仕方がないことだった。きっとそれは。と、今なら思える。


だけど当時の私は、仲が良いと思っていた二人の人間から、陰で私の悪印象について話をされていたことがどうしても胸に刺さった。10代の私は自分勝手だった。今もそうかもしれないけど。そのメールを見てから泣いたりもした。詩音ちゃんは私に友好的だから、私も彼女を恨むようなことはしたくない。そう思って留めていた感情がたくさんあった。なんで。どうして。私はあれだけ良い子だって思ってあげてたのに?


そこでようやく気付いた。私は、いつの間にかしてあげた精神で、詩音ちゃんに良い子であることを強制していたのだ。私があなたのことを悪く思わずにいてあげてるんだから、あなたはいい子でいなきゃダメだよ、って。そんな、本当に自分勝手なことを思っていた。人間誰にだって愚痴を言いたくなる時や、悪い部分が垣間見えることはある。それに困ったことに、彼女がそういう話をしたのは私の自業自得で間違いないのだから、誰かを責められる立場でもない。


だけど中学生の私はどうしても割り切れなかった。結局、英太くんと詩音ちゃんは同じ高校に合格し、中学卒業と同時に付き合い始めたと聞いた。悪口を言っていても、詩音ちゃんは好きな人に選ばれた。私の中で、そんな最悪な印象が出来上がってしまった。結局顔なんだ、って荒んだ考えをして男子を見るようになった。


一緒に英太くんの家を訪問していた雅ちゃんも二人と同じ高校に進んでおり、雅ちゃんから付き合い始めた二人の話は筒抜けだった(私は英太くんを完全に吹っ切れたと言っていたので、雅ちゃんはそれを信じて話をしていたのだと思う)。別の高校に進んでからも定期的に遊ぶ約束をしていた私と雅ちゃん。二人の話は聞きたくなくて、だけど知りたくもあって。入学してから一か月ほどが過ぎた頃。雅ちゃんの元気がなかった。なにかあったのか理由を聞いてみると、とある人達から悪口を言われているかもしれないとのこと。そのとある人達というのは、私もよく知っている人だった。


雅ちゃんが通う高校に進学したのは英太くんと詩音ちゃんの他に、私とメールの一件があったヒデキ君、それから詩音ちゃんの親友である泉美ちゃんの二人がいた。詩音ちゃんを除いた同中の四人で、毎朝同じ電車に乗って学校へ向かっているらしかった(詩音ちゃんはマイペースなこともあり、ほとんどギリギリ到着の電車に乗っていたそう)。そんなある日のこと、雅ちゃんは電車の中でいつものように三人の会話に入ろうとした。が、英太くんもヒデキくんも泉美ちゃんも微妙な反応をして、雅ちゃんがわからない話ばかり続ける。雅ちゃんは少し不貞腐れて、イヤホンをしたそう。それから数分後。


「スパイがおるから」


イヤホン越しに、英太くんの口からそんな言葉が聞こえてきた。英太くんとヒデキ、泉美ちゃんの三人が、雰囲気的に誰かの悪口を言っていることを雅ちゃんは察した。さっきの三人の反応もあり、心臓が大きく脈打った雅ちゃんは、音楽を止めて、聞こえてないフリをしながら三人の会話に聞き入った。「詩音も自分からペラペラ言うタイプちゃうから、絶対スパイのせいやろ」「俺も言ってへんで」泉美ちゃんとヒデキ君がそんなことを言う。


英太くんはどうやら、自分と詩音ちゃんとの関係が同中の人達に知れわたっているのが気に食わないそうだった。そうして、スパイと称されているのは紛れもなく自分であることを雅ちゃんは察した。なぜなら、「スパイ」という言葉が出た時、本当に一瞬だけ、雅ちゃんの視界の端で英太くんが彼女自身のことを親指で差したらしい。


「あいつらなんて二軍やん。中途半端にこっちに足突っ込んでくるから情報漏れんねん」


聞こえてきた英太くんの言葉に、雅ちゃんはショックを受けた。雅ちゃんもそこで強気に出れる人柄ではなく、電車を降りると何もなかったように、むしろ不自然なまでにいつも以上に親しく話しかけてくる泉美ちゃんに何も言えず一日を過ごしたらしい。


もちろんこれは私が雅ちゃんから聞いた話で、私自身が見聞きした話じゃない。色々な事情が複雑に絡まり合って、彼らにも彼らなりに思うところがあって、本当のこととは異なっていたかもしれない。だけど、親友という立場にある雅ちゃんからその話を聞いた当時の私は絶句した。世界が真っ暗闇に塗りつぶされて、心臓を奈落の底に投げ落とされたような心地がした。


二軍、そうか。英太くんは私たちのことをそんな風に思っていたのか。見下していたのか。だとしたら英太くんと一緒に盛り上がっていた泉美ちゃんとヒデキくん、彼の恋人の詩音ちゃんは一軍だという認識で良いのだろうか。複数人で見下して、悪口を言って、悦に入っていたのだろうか。私と雅ちゃんは、そんな人達の優越感を満たすために餌に使われたのだろうか。じゃあ私が英太くんに猛アタックしていた時も、それはそれは鬱陶しくて敵わなかっただろう。詩音ちゃんみたいに可愛くもなんともない、二軍の女から好かれたところで、一ミリも嬉しくなかっただろう。


そう考えると自分が惨めで仕方がなかった。自分のことが恥ずかしい。自分勝手な感情に突き動かされて、暴走して、英太くんに迷惑をかけていた挙句、当然と言ってしまえばそうだが、下に見られていた。対等になんて見てくれていなかった。私がこれまで取ってきた行動がどれだけ嘲笑されるべきものだったのか、その時改めて認識した気がする。


私は異性が怖くなった。小学生からの仲だった男子でさえ、その心の奥で本当は何を思っていたのかわからなかったのに、高校で対面したばかりの異性なんてもっとわからない。少し話しただけで、「ブスが話しかけてんじゃねぇよ」って思われたんじゃないかって考えるようになってしまった。性悪説を信じる人間になっていた。呪って、恨んで、自己否定して、悲劇のヒロインになって。華の三年間を陰鬱に過ごして棒に振った。


人間というのは複雑だ。一つの態度や言葉に、十人十色の解釈が存在する。だから誰かが放った言葉の意図が100%そのままで外の世界に届けられることはない。私が受け取った数々の意図も情報も、発信した人は別の意図を持っていたかもしれない。だけど、私が受け取って、そうだと解釈した時点でもう手遅れなのだ。悲劇のヒロインになるには十分だった。悲劇のヒロインでいるのは本当に楽だ。自分だけが被害者ヅラをしていれば良いんだから。当時の私は自分が犯した過ちを棚に上げて、ただされた嫌なことだけを覚えていた。いや、今はそうじゃないと完全否定もできない。


黒歴史公開とともに、当時どうすることも出来なかった、10代という箱の中で起こる小さないざこざを吐き出したかった。主観で書いている文章だから、英太くんも詩音ちゃんもヒデキくんも泉美ちゃんも、書き方に悪意が出てしまっているかもしれない。これを読んだ人が彼らに悪印象を持ってしまうかもしれない。だけど彼らだけが絶対に悪いなんてそんなことは有り得ない。確かに当時の私は傷ついたけれど、私が暴走したり傲慢な思想を抱いていたように、私にも私の言い分があるように、彼らにだって思うところが絶対にあったのだ。それはきっと私が見えないところでたくさん動いていた。だから、一面だけを見て誰かを否定しようとすることは避けたい、と今の私は思えるようになった。その人の行動の裏にどういう心情があって、どういう意図があるのか、それを知ることができれば、少なからず日常間でのいざこざは減らしていけると思うから。


今でも思い出すと胸がチクッと痛んで、自己否定の波に呑まれてしまいそうになるけれど、当時の自分を省みるきっかけになったし、内緒話をする時には「私は昔口が軽くて裏で揶揄されてたことがあるから、もう同じ轍は踏まないんだ」って相手を信頼させるためのカードにもなったりする。10代というあの青い時代でしか経験できない苦さ。それも悪いものじゃないのかもしれない。


それでも、あの時に戻れるならやり直したいってやっぱり思っちゃうけどね。

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