金持ち地蔵

 俺はとある森を彷徨っていた。鬱蒼とした森を歩いているのにも理由がある。この森には「金持ち地蔵」なるものがある。噂によれば「賽銭をすればするほど金持ちになる」らしい。こんなうまい話はそうそうない。


 だが、地蔵を探しても中々見つからない。道なき道を歩かないと地蔵には辿り着けないという事前情報は得ている。

 途方に暮れている時だった。向こうから若い男がやって来た。

「なあ、金持ち地蔵がどこにあるか知らないか?」ダメ元で尋ねる。

「ああ、今さっきお賽銭してきたところさ。こっちの道を行けばすぐそこだ」

 若い男は親切に教えてくれた。笑顔なのを見ると、金持ち地蔵のご利益があったに違いない。


 さっそく案内された道を行くと、それらしき地蔵にたどり着いた。だが、賽銭置き場には一円もない。恐らく地蔵の話を聞きつけたコソ泥が盗んでいったんだろう。バチが当たればいいのに。

 いざ、賽銭をしようとした時だった。どこからともなく声が聞こえた。

「さては、私の噂を聞きつけてやって来たな?」

 声の主は目の前の地蔵だった。地蔵が喋っている? 自分の幻覚だろうか?

「そう疑う必要はない。私こそが『金持ち地蔵』だ。私に用があるのではないか?」

 そうだ。さっそく賽銭をしなくては。財布から小銭を取り出すと、賽銭置き場に置く。すると、一瞬のうちに賽銭は消えていた。なるほど、一銭も賽銭がなかったのはこういう仕掛けがあったからか。

「これで十分か?」

「いや、まだだ。もっと必要だ」

「じゃあ、これでどうだ」

 俺は一万円を叩きつける。これだけ捧げれば十分だろう。

「まだ足りぬ。もっと必要だ」

 まさか一万円でも足りないというのか?

 もっと賽銭し、より金持ちになれるのならば。俺は思い切って財布の中の全財産をぶちまける。

「さあ、これ以上は出せないぞ」空っぽの財布を地蔵の前で振る。

「ふむ、十分だ」

「ところでよ、地蔵さん。いつになったら俺は金持ちになれるんだ?」

「はて? 誰が『お前を金持ちにする』と言った?」

 地蔵の言う意味が分からない。

「お前は噂の重要な部分を聞いておらんな。正確にはこうだ。『金持ち地蔵に賽銭すれはするほど、が金持ちになる』のだ」

 俺は呆然とした。全額賽銭したのに、全て地蔵のものになってしまったのだ。

「さあ、ここには用はなかろう。去るがよい」


 俺はこの鬱憤を誰かにぶつけなければ気分がおさまらない。

 すると向こうから老人がやって来た。

「金持ち地蔵はどこですかな?」

 俺は満面の笑顔で答えた。

「ここを真っ直ぐですよ」と。

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