ショートショート集

人探し

　健太は日課のジョギングをしていた。これは生活習慣病にならないためであったが、ゆくゆくはマラソン大会に出てみたいからでもある。

　ジョギングの途中で信号が赤になった。冬なので動かないと寒さで体が冷えてしまう。その場で足踏みを続ける。

　横断歩道を渡ると、住宅街で知り合いのお婆さんに出会った。

「おはよう。今日も精が出るわねぇ」

「おはようございます！　日課ですから、走ってないと落ち着かないので」

　しばらく雑談をすると、再び走り始める。その時だった。目の端でポスターをとらえる。電柱に貼られたポスターにはこう書かれていた。

「人探し　この子を見た方がいましたら、ご連絡ください」

そこには小学生と思われる子供の写真が貼られており、行方不明になった当日の服装などが記されていた。

　健太はその子供をどこかで見た記憶があった。はて、どこだっけ。そうだ、近所の公園だ！

　連絡すべくポスターに書かれた電話番号にかけてみる。しばらくののち、男の声が聞こえた。

「あの、人探しのポスターを見たんですけど」

「はあ。今度は手がかりになる情報だといいんですが」

　どうやらこれまでにも情報提供があったらしい。手短に用件を伝える。

「それは朗報だ！　ぜひ直接会って詳しく聞かせてください！」

　電話の主はひどく興奮していた。役に立てると思うと、嬉しい気持ちになる。

　電話の主から指定された場所は、夕方の公園だった。冬なので、すっかり日が暮れている。なぜ、こんな時間を選んだんだろう。まあ、深く考える必要はないか。

　しばらく待つと向こうから背が高い男が歩いてきた。電話の主に違いない。

「あなたが電話で連絡をくれた方ですか？」

　健太はうなずく。

「これはありがたい。早速ですが……」

　男が近づいて来た瞬間、健太は腹部を殴られた。

「助かったぜ。人質に逃げられて困ってたんだ。目撃者のお前には消えてもらおう」

　その後の健太の行方を知る者はいない。