第28話 悪役アビロス、ゲーム主人公(破滅の原因)と出会う

「―――えいっ!」


 会場から大歓声と凄まじい拍手が巻き起こる。

 ステラの勝利だ。


 俺の実技試験は終了したので、ステラの試合を観戦していたのだ。


 鳴りやまない賞賛の声、やっぱすげぇ人気だな。メインヒロインムーブ全開の聖女さま。


「ハ~ハッハ! ステラは随分と面白くなったじゃないか」

「マリーナおうじょ……じゃないマリーナ」

「うむ、ステラの対戦相手も決して弱くはなかったがな」

「ええ、そうですね」


 そう、ステラの対戦相手は攻撃魔法に長けた子だった。

 ステラは聖属性魔法という強力な魔法を持っているが、攻撃に特化した魔法ではない。


 だから魔法戦は互角の攻防を繰りひろげた。


 そして最後に勝負を決めたのは、聖杖での打撃。

 しかもラビア先生から貰った、【純白の女神聖杖】で強烈なゴツンをかました。


 あの杖はステラの為にあるようなものだ。

 聖属性魔力を高めるだけなく、後々ステラにしか使えない魔法が多数使えるようになる。


「ハハッ、今後の成長が楽しみだな。ステラのやつ」

「そうか、彼女はまだまだ成長するのか……」


 おっと、なんだか嬉しくなってつい口にしてまった。


「だが、まだまだ成長するのはアビロス。おまえもだろう?」

「どうでしょうね」


 俺はなんとなく返答をはぐらかした。

 死ぬほど努力をしたので、簡単に負ける気はない……が。


 俺の目の前にいるマリーナやステラといったメインヒロインたちは、とんでもない成長伸びしろがある。

 ゲーム主人公も同じく、とんでもない成長力を秘めている。


 対して俺は単なるやられ悪役。


 でもな……5年も死ぬ気で鍛えるとある感情が湧いてくるんだよな。



 ―――負けたくねぇ。



「ハ~ハッハ! いい目だ! やっぱりわたしはお前が好きだよ!」


 んん? 何の話? マリーナが俺の肩をバシバシ叩きながら高笑いした。


「だが、わたしもまだまだ成長するかならな、いや……しなければならない」


 そう言ったマリーナの顔は戦闘狂というよりは、何かを改めて決意したような感じがした。目的を必ず達成する決意がこもったような。


「おまえが学園に来るのを楽しみにしているぞ!」


 そう言うと王女さまは颯爽と去って行った。




 ◇◇◇




 丸一日かけての試験は終了した。

 あとは帰路につくだけなんだが……


「ちょっと直してきます」

「なおす? なにを??」

「アビロス、私の顔をみてわかりませんか?」

「ええ? いつも通り可愛いけどな」


「そ、そうなの!? 嬉しぃ……じゃなくて! はあ……あなたも貴族なんですから。もう少し勉強が必要ですね」


 そう言って、個室に去って行った。


 ふむ、どうやら化粧の事らしい。

 なるほど、たしかにステラは貴族令嬢だ。しかも4大貴族の。

 帰り道も王都を歩くのだから、ある程度は整えないといけないのだろう。いや、女性は大変だ。


 さて、俺はここにボッチで突っ立っているのもなんだから、周辺をブラブラと歩いてみる。


 そこへ背後から急接近する気配―――


「―――おっと!」

「ご、ごめんなさい! 僕、ちゃんと前を見てなくて!」



 おい―――こいつ。



 まさか……



「ああ、大丈夫だ。気にするな」

「ありがとうございます! あ、あれ? あなたはアビロスさんですか?」


 いやいや、こんなところで出会うか?


「そうだが……」

「うわ~~やっぱりだ! 試合見てました! 凄く強くって! カッコ良くて!」


 いや、強くてカッコいいのはおまえだろ。


「あ、僕の名前は―――」


 知ってるさ、いやというほどおまえでプレイしたからな。



 ―――ブレイル・ゴードン



 このゲーム世界の主人公さまだ。



 まじかよ。でもそりゃそうか。ブレイルも入園試験を受けに来ていたんだった。

 しかし、こんなタイミングで会うとはなぁ。


 急にペラペラと会話をはじめるブレイル。


 にしても、ちょっと小さくないか? 背丈も俺より低いぞ……

 俺の知っているゲーム原作の体型となんか違う。


 ま、まあいいか。ゲーム主人公だからな。小さかろうが主人公ムーブするはずだ。


「それでアビロスさん? いいですか?」

「お、おう! どうした? いいぞ」


 やべぇ、勢いでいいとか言ってしまった。色々衝撃的でこいつの話が上の空だったよ。


 ところで、いいってなにがだ?


「うわ~~ありがとう! 今日から僕たち友達だね! アビロス君って呼んでいい?」

「あ、ああ。構わんが」


 んん? どういうこと?


「僕、アビロス君みたいになれるように頑張るよ! じゃあ、バイト行かないと」


 そう言うと、ブレイルは純粋無垢な笑顔を見せて走り去っていった。


 試験受けたらすぐバイトだと?

 なんだこれ? 主人公にそんな設定あったかな?


 いや、ちょっと待て。


 もっと重要な事を見落としているぞ俺。


 とてつもなく大事な事だ。


 もしかして、俺はお友達になってしまったのか……



 ――――――悪役アビロス最大の破滅原因であるゲーム主人公と。



 え? これ普通にヤバくない?






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