第27話 悪役アビロス、王女と激戦を繰り広げる
「ハ~ハッハ! アビロス! 久しぶりだな!」
闘技場に仁王立ちで大笑いする少女。
マリーナ・ロイ・リストリア
このゲーム世界ブレパのメイン舞台となるリストリア王国の第三王女にして、メインヒロインの1人。
綺麗だが力強さが湧き出てくるような情熱的な赤い髪、引き締まったウエストと綺麗な顔立ち。
そして、その燃えるような赤い瞳をギラギラさせている。
あと……この子もタユンポヨンと2つの膨らみを揺らしている。まあゲームのキャラデザだからな。そりゃ基本的にそこは強調されるものだが。
「それにステラとも仲が良さそうだな! なにか弱みでも握っているのか!」
「いや、マリーナ王女殿下。彼女とは鍛錬の先生が同じ人なもんですから」
「ハ~ハッハ! 君が鍛錬だと? どういう風の吹き回しだ!」
どうやら、マリーナ王女のアビロス評価はかなり低いようだ。
流石に王女にちょっかいは出していないのだろうが、王家だからな。あらゆる貴族の情報が集まっているのだろう。
「俺だって、鍛錬ぐらいしますよ」
「ほお~心を入れ替えたということか! ふむ……なるほど、とんでもない身体じゃないか! 楽しみだぞ……」
マリーナ王女が、その綺麗な顔と引き締まった身体を揺らしてニヤリと微笑んだ。
「さて――――――やろうか!」
クッと地を蹴ったかと思えば、物凄い勢いでこちらに突進してくるマリーナ王女。
バネのような、しなりあるスタートダッシュだ。
俺も臆せず、地を蹴り2人の間合いは一気に肉薄する。
王女が繰り出す上段からの打ち下ろしの拳―――
受けるか?
いや―――
直感とゲーム知識が俺の身体を回避させる。
凄まじい地響きと共に、石造りの地面がえぐり取られる。破片が花火のように豪快に飛び散った。
マリーナは怪力キャラだ。その引き締まった身体からは想像できないほどのパワーを秘めている。
やべぇ、とんでもないな……
が――――――
俺も窮地はこの5年間で飽きるほど経験してるんでね―――
攻撃を躱しながらも、俺は練っていた魔力を一気に魔法に変換する。
「漆黒の闇よ、その禍々しき黒の軍勢で押しつぶせ。
――――――
「―――なに!?」
マリーナの拳で豪快に飛び散った破片複数に、重力をかける。
とたんにそのひとつひとつの破片が弾丸のごとく落下し、マリーナに降り注ぐ。
「うらぁあああああ!」
マジかよ……拳で迎撃してやがる……
もちろん全ての破片は無理だが、大きなものを中心に砕いている。
ハハッ、すげぇ―――なんだかゾクゾクしてきやがった。
「ほう、よく今のをかわしたうえに、わたしに反撃をくらわすとはな」
「ふぅ……それはこっちのセリフですよ。あいかわらずのバカ力ですね、王女殿下」
「んん? わたしの事を知っているかのような言い方だな? 君と対戦するのは初めてなはずだが?」
「それはこっちの企業秘密ですよ」
マリーナは戦闘狂だ。戦いが大好きヒロインだから、さっきのような攻防に心躍らせてるのだろう。
さて、打撃の応酬ではこちらの分が悪い。
なら―――
俺は腰の獲物を抜いた。
ぬるりと不気味な光を放つ黒刀【ダークブレイド】。
「ハ~ハッハ、面白いなアビロス!」
対するマリーナも獲物を背中から抜く。
「【パシェネランス】……」
マリーナの専用武器、赤い槍だ。
彼女は槍をくるりとひと回しすると正面突きの構えを取る。
「うらぁあああああ! 燃えろ相棒! 久々の好敵手だぞ!」
マリーナの槍が真っ赤に燃えたぎり始めた。
―――おいおいおい。これって……
「アビロス! おまえなら思いっきりやれそうだぞ!」
「チッ……このお転婆姫が―――」
マリーナが繰り出そうとしているのは、炎の槍突きだ。
しかもただの炎ではない。王家の炎【ロイヤルファイアー】だ。
通常の炎よりもはるかに高いバフが付き、さらにマリーナのバカ力で繰り出される。
しかし、まさかこの技を見られるとはなぁ……ゲーム転生者冥利に尽きるぜ。
が、浸るのはここまでだな―――まともに喰らったら間違いなく負ける。
俺も思いっきりやらねぇとな!
「さ~て、黒い相棒。ここは番狂わせといくぜぇ!」
俺の手から闇属性魔力が【ダークブレイド】にズズズと流れ込んでいく。
「ほう、アビロス。さっきの魔法といい、不思議な力を使う奴だな」
「ハハッ、王女さまにも知らないものがあるってことをお教えしますよ」
「面白い! 行くぞ!
――――――
赤いスピアが爆炎を上げながら、猛烈な勢いで俺に迫る。
マリーナ自らの突進とバカ力が付与されて、もはや人間ミサイルだ。
俺は上段に構えた【ダークブレイド】を思いっきり振り下ろす。
「――――――
強力な重力を乗せた黒い斬撃。
黒と赤が交わり、両者の武器が前進を止める。
ぐっ……振り切れねぇえ!
俺の重力剣は、幾度となく窮地を救ってくれた俺の最も得意とする攻撃。そして絶対の信頼を置いている。
が……振り切れない。クソ……おれの最高級の攻撃だぞ。
相手のマリーナも同じような顔をしている。最大の攻撃を止められて苛立っているんだろう。
マリーナが俺の【ダークブレイド】を凝視している。
さすが戦闘狂の王女様。気づいたか……
【ダークブレイド】にはわずかだが吸引効果が付与されている。
これは、相手の魔力や攻撃力を吸収して自身の攻撃力にプラスするというものだ。
なんとこれ、闇属性魔力でしか効果を発揮しない。
つまり俺しか使用できないということだ。
これもなにかの設定で生み出された武器なのだろうか? ラビア先生は酒場で巻き上げたと言っていたが。
とにかく、僅かながらも俺はマリーナの攻撃を吸収して攻撃に上乗せしているのだ。
だが……こいつバカ力か!?
一向に均衡が崩れない。
こうなったら―――
―――【深淵闇魔法】を使うしかないか。
あれはまだうまくコントロール出来ないんだが。
そして使うと魔力が枯渇する諸刃の剣でもある。
俺は体の奥底から深淵の魔力を練り上げようと、腹に力を入れた。
「―――なにっ!?」
急にマリーナから殺気が消えていく。
「ふぅ―――今日はここまでのようだな」
クイっと脇に視線を移す王女。
何人もの試験官が闘技場に乗り出していた。
このまま続けると危険と判断したのだろう。
ああ……わからないほど夢中だったのか、俺。
こうして俺とマリーナの模擬戦は幕を閉じた。
「マリーナ王女殿下、胸を貸して頂きありがとうございます」
「ハ~ハッハ! やる気満々だったくせに嘘をつくな。それとマリーナでいい。入園すれば同じ生徒だ。お転婆なんて言ってくる奴が王女殿下とか言うんじゃない」
おお……そう言えば調子に乗って口走った気がする。聞いてたか……俺は興奮するとなんか色々言ってしまうらしい。
◇◇◇
◇マリーナ王女視点◇
ふぅ……まさか渾身の
とんでもない身体能力だ。
さらに【闇魔法】か、聞いたこともないぞ。
しかもあいつはまだ奥の手を隠していた。最後の最後でやつの魔力が変化しかけていたからな。
まだまだ強い奴はいるんだな。
もっと強く、もっと力が欲しい……
わたしには強くならなきゃいけない理由がある。
―――日々鍛錬だな。
しかしアビロスか……直接の接点はあまり無かったが、あんな男だったかな。
少なくともわたしの耳に入って来るあいつの情報は、良いものでは無かったが。
やはり、実際に拳を交わすに限るな。
拳は噓をついているかどうかが容易にわかる。
そして、アビロスはクソ野郎でも、性根が腐っている奴でもない。
そんな奴が努力であそこまで強くはなれないからな。
あれは相当な覚悟と、死ぬような努力の積み重ねで得た力だ。
アビロスならわたしの目的を共に……いや、何を考えているんだ。これはわたしの問題だ。彼を巻き込んではいけない……
ふぅ……そう期待してまうほどの強さだった。
それに……なかなかいい男になったじゃないか。
柄にもなく少しドキっとしたぞ。
わたしが男に興味を持つなんて、初めてだぞ。フフフ、本当に不思議な男だ。
絶対に学園に来いよ―――
学園生活の楽しみがひとつ増えたよ。アビロス。
―――――――――――――――――――
いつも読んで頂きありがとうございます。
第二のメインヒロインに気に入られてしまうアビロス君。
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