第29話 悪役アビロスと専属メイド(ララ)

「ご主人様~~朝ごはんできたです~~」


 ララが元気に俺を呼びに来た。


「ご主人様、ご飯食べたら外出ですか?」

「ああ、そうだな。少し買いたいものがあるからな」


 俺は入学試験に無事合格した。来週から学園と、王都での寮生活がはじまる。


「あ、あのご主人様……」

「ん? どうしたララ?」


 モジモジするララ。


「いえなんでもないです! お買い物、ララもついていくです!」

「ああ、助かるよ」


 俺のメイドさんはかわいいガッツポーズをして、タタッと去って行った。

 なんだ? 気のせいか? 何か話したそうな感じもしたけど。


 ララは俺にとって特別なメイドだ。専属メイドだから特別というのではなく、彼女が近くにいるだけで、なんだかこっちも元気になるんだよな。

 不思議な子だ。


 さて、朝食後は買い出しだ。なんかこういうのちょっとワクワクする。前世でも新しい街に住む時は色々買物したもんだ。


 しかし……俺の脳裏に別の事が浮上してくる。


 入園試験当日の帰り道のことだ。


 俺はゲーム主人公のブレイルとバッタリ遭遇した。


 しかも何故か俺と友達になってくれとか、ぬかしやがった。


 どうなってるんだ? これは罠か?


 いや、俺がアビロスに転生してからは、極力恨みを買うようなことはしていない。

 ましてや、ブレイルとは初対面だった。

 つまりブレイルに俺へのヘイトは溜まっていないはず。



 ―――てことは、マジで友達になろうとしている?



 いやいや、俺をぶっ殺す張本人だぞ。絡みたくないキャラ、ナンバーワンだ。


 まあ、あの時だけの話だろう。ブレイルは平民出だが、持ち前の正義感と人当たりの良さで次々に仲間ができていくはず。俺を仲間にするメリットなどない。


 そうだ、そうに違いない。そう思って、絡まないようにしよう。




 ◇◇◇




「ふむ、いよいよおまえも入学か」

「まあまあ、アビロスちゃん~ステラちゃんをしっかり守り切るのですよ。あの子人気でしょうから、変な虫がいっぱい寄ってきそう~~ああ~~母は心配です!」


「父上、母上、ありがとうございます。しっかり勉学に励んできますよ」


 俺は朝食のスープを口に運ぶ手を止めて。父上に返事をする。

 母上の暴走気味なセリフはスルーだ。


 にしても、ステラは間違いなく学園で人気者になるだろうな。

 超絶美少女で、気が利いて、分け隔てなくコミュニケーションが取れて、頭も良くて、聖女というステータスがあって。


 いや、ヤバいなこれ……。


 俺はステラが好きだ。もうこれは間違いない。

 もっとも近寄ってはいけないキャラの一人に惚れてしまった。


 だからあながち母上の暴走セリフは間違ってはいない。

 変な奴が寄ってきたら、いい気分はしないだろう。


 ただし、これは俺にとってはの話だ。


 これは相手の気持ちがどうなのかというところが重要だ。

 母上は、俺たちが付き合っているかの言動をするが、現実的には付き合ってなどいない。


 ステラが俺に好印象を持っているのはなんとなくわかってきた。だが、それが恋愛感情かと言うと違うと思われる。


 前に焼肉に行った際にそれとなく聞いてみたことがある。

 その時は、4大貴族として、ラビア先生の愛弟子として今後ともよろしくお願いします。といった回答だった。


 つまり、愛しているのLOVEとはちょっと違うという事だ。


 この問題いつも最終的にこの結論にいくんだよな。



 これが正解なのか?



 ゲームでしか恋人がいなかった俺には、よくわからんのよね。


 ということで、今後もステラには絡むし。何かあれば守り通す。

 ゲーム主人公のブレイルには極力絡まない。


 この方針でいくことにした。


「そう言えばアビロスちゃん。おつきのメイドさんは決めたのかしら?」

「あ、そうだった……!?」


 しまった、忘れてた。

 母上の言っているのは、学園に連れて行く使用人のことだ。


「もう、アビロスちゃんメッですよ~~誰を選ぶのかはアビロスちゃん次第だけど、あの子はずっと待っているんですからね~~」


 そうだった……最近、色々と考え事をしすぎていたようだ。しっかり入園準備をしないと。


 そして……



 朝の顔の意味がわかったぞ。ララ。




 ◇◇◇




 ◇ララ視点◇



「ララ、こっちの店も寄っていいか?」

「ハイです! 行くです!」


 ふわぁ~~久しぶりのご主人様との外出です~~。


 ご主人様は最近とってもお忙しそうです。

 だから……ララの事でお時間取らせちゃダメです。


「ララ、このカップは野外演習でも使えそうだぞ」

「ハイです! それは耐火率が高いので日常火魔法でも壊れないです!」

「おお、ってことは上手くやれば野外でも温かい飲み物が飲めそうだな!」


 ご主人様とっても楽しそうです。


 ララはご主人様のこのお顔が好きです。

 日用品など、誰かに使いを走らせればいいですし、そもそも学園寮はそこそこ立派だと聞きます。

 だからカップもあるはずです。


 でも……ご主人様はこだわりもあるし。自分で選ぶのが好きです。

 5年間でいろんなご主人様を見てきたから、ララにはわかるです。


「ふむ、備えあれば憂いなしだな」

「ハイです!」


 これもご主人様がたまに使う特別な言葉です。他の人は聞いてもポカーンとしてますが、ララにはわかるです。


 ララはご主人様の言った言葉は一言も忘れないです。



 5年じゃなくて……もっとご主人様の傍にいたいです……



 たまに本音が出そうになるです。


 でもララのワガママを言っちゃダメです。

 学園生活はご主人様にとって大事な時間です。お屋敷には、ララよりもきめ細やかなサポートができる先輩メイドさんたちがいっぱいいるです。



 だから―――ワガママ言わないです。



「よし、色も選べるぞ! 俺は黒だな。ララは何色だ?」


「ハイです! え~と、ララは……!?」



 え!? ララの分!?



「え? えと……ご主人様?」


「ララの分だよ。やはり緑かな? しかし赤もいいけどな」



 連れて行ってくれるですか―――



「どうした? ララ?」

「そ、そのあたし、おつきのメイドとして学園に行っていいですか?」


 ずっと言いたくても言えなかった言葉。


 本当は怖かった。


 ―――違うメイドさんの名前がご主人様の口から出てきたら?

 ―――もうララは必要じゃないってわかったら?


 答えを聞くのが怖くて怖くてたまらなかった。



「当たり前だろ? 何言ってるんだ? 俺のメイドはララ以外にはいない。学園を卒業してもその先もずっとだ」


「ふ、ふえぇええ……」


 ダメです。もう涙が止まらないです。


「言うのが遅くなってしまった。悪かったララ。俺についてきてくれるか?」


「いぎゅましゅでしゅ~~」


 もうグダグダです~鼻水も出ちゃてるです~~



 ご主人さまが、ララの顔を優しく拭いて真っすぐに視線を合わせました。



「ありがとう。ではララが俺のおつきメイドで決定だ。よろしく頼むぞ」


「―――は、ハイです!」



 その日一番の元気な声。



 ララはご主人さまに一生ついていくです!!




―――――――――――――――――――


いつも読んで頂きありがとうございます。


アビロス君が大好きなララでした。 


少しでも面白い! 少しでも続きが読みたい! と思って頂けましたら、

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