第25話 悪役アビロス、入園試験に挑む
あれから1週間後、俺は王都にある試験会場に向かっていた。
マルマーク家の王都別邸に前泊したので、今日は徒歩である。
試験は学園ではなく、別会場で行われる。
学園の入学は必須だ。基本的に貴族は学園卒業という肩書が必要だし、俺は4大貴族だ。
メインストーリーに絡まなくても、破滅回避してひっそりエンジョイするにも、学園は卒業した方が良い。
とにかく―――
目立たないことだな。
学園はゲームストーリーに関わるキャラが多数登場する。
俺としては、あまりネームドキャラとは関わらず、その他モブキャラとしてすごせればいいのだ。
ひっそりと合格して、ひっそりと入園して、ひっそりと卒業する。
モブであっても、ゲーム舞台の知られざる部分を見つけたりと、ファンとして堪能することはできるし。
とにかく注目を浴びないようにしよう。
と思っていたのだが……
「きゃ~~! 聖女様よ!」
「ウソ~~! 麗しすぎるぅううう!」
なぜこんなに周りが騒がしいのか?
その理由は、俺の隣を歩く純白の法衣に身を包んだ超絶美少女。
聖女ステラである。
彼女は一緒に試験会場に行こうと、朝一でわざわざ俺の別邸まで来たのだ。
もちろん俺もステラと一緒に歩けるのは嬉しい。
―――しかしだ!
死ぬほど注目を浴びてるぞ―――これ!
ステラが目立つのはいい。メインヒロインだし。世界を破滅から救うキャラの1人だし。
なによりかわいいし。
だが……
「ねぇ、聖女様の隣のいる人……」
「あぁ……マルマーク家の……」
「たしかアビロス? うわさではスカートめくりが趣味らしいわ」
「し、絡んじゃダメよ。何されるかわからないわ」
「なんであいつが聖女様と一緒にいるのかしら?」
「きっとパンツよ、パンツ握られてるのよ、鬼畜だわ。聖女様かわいそう」
おい、パンツ握られてるってなんだ? 弱みを握ったみたいに言うんじゃない。
貴族令嬢らしき娘たちから嫌悪の視線を感じる。
転生してからの俺は修行と勉強に集中して、出来る限り社交の場には出ていなかった。
それでも、転生前のアビロスが色々やらかしていたのだろう、俺の知らんところで低評価が広まっているようだ。
つまり悪役アビロスとしては、ステラと歩くだけでヘイトが自然に溜まっていくのだ。
しかし、今は気にしてもどうしようもない。
さっさと試験会場に向かおう。
そんな急ぎ足となった俺に、声をかけてくるステラ。
「アビロス、ちゃんと筆記用具はもってきましたか?」
「ああ」
「アビロス、朝はちゃんと食べましたか?」
「ああ」
「アビロス―――」
「ちょっと待てステラ」
「はい? どうしましたアビロス?」
これじゃまるでオカンじゃないか。とは思わない。
そうじゃない。
不安なのだろう。
ステラの表情が少し緊張しているし、いつもよりソワソワしている。
5年間必死に修行したし、勉強もやった。
しかし試験は試験、一発試験なのだ。
良ければ合格、ダメなら落ちる。
ましてやステラは将来を期待された聖女。周りからの期待も半端ないだろう。
だから俺は一言だけステラに返答する。
「ステラ、俺たちなら大丈夫だ」
「フフ、そうですね。あの地獄を経験した人はそうはいないでしょうね。頑張りましょうアビロス」
ステラが小さな手をキュッと握って、ガッツポーズをしてみせた。
よし、いい顔だぜ。俺も頑張らんとな。
ちょっといい気分になっていると、後ろから変な笑い声が聞こえてくる。
「ビャハハッハ~~ステラじゃねぇか~」
振り返ると男が立っている。俺と同い年ぐらいか、受験生なんだろう。ステラの知り合いか?
「ビャハハッハ~~それにクソアビロスじゃねぇかよ~~」
んん? 俺を知っている? みたところ貴族っぽいが。
「ビャハハッハ~~なにポケーっとしてんだ。このビノリア家の次男ヒファロさまに見惚れてんのかぁ~~」
「4大貴族の次男坊……おまえなんか知らん! だれだ?」
「え? どちらさまですか?」
「はぁあああ! なに面白いボケかましてんだぁあ!」
ビノリア家と言えば俺たちと同じ4大貴族。長男はわかるが次男なんてゲームに登場したか? 思い出せんな。
「ちっ! まあいい。それより~~ステラぁあ久々にみたら色々と育ってんじゃねか~ビャハッ~~」
ヒファロの視線がステラのタユンポヨンを捉えて、下卑た笑いをこぼす。
「なんですか! き、気持ち悪い! ちょっと近寄らないでください!」
「ビャハハハ、いいじゃねぇか~~そんな変態クソ野郎より俺様と試験うけにいこうぜぇ~~」
ステラの腕を掴もうと手を伸ばすヒファロ。
が、その手はステラに届かなかった。
俺がヒファロの手首を掴んだからだ。
「ああ……? なにやってんだよ、変態アビロスくんよぉ」
「変態はおまえだろうが」
その下卑た手に、黒い炎がともる。
「ぎゃぁあああ! あちぃ~~んだよこれぇ! おい消えねぇぞ!」
「さあ、ステラ行くぞ」
「え、ええアビロス」
俺はステラの手を取って、スッとその場を去る。後ろではヒファロが覚えてろ!とかなんかわめいているが、知らん。
「ステラ、あんなやつにかまうな」
「アビロス……ありがとう」
強く握った聖杖から力を抜くステラ。
「ああいう奴は悪人アビロスの専門だ、任せとけ」
「ええ、わかったわ。フフ、優しい悪人さん」
ステラも、ヒファロにされるがままになる気など毛頭ない。
あと少し。俺が割って入るのが遅ければ、ヒファロはステラにどぎつい一発をかまされていただろう。
だけど、あんなクソに手を汚す必要はない。俺はそう思った。
それに、ステラにちょっかいを出されて、俺自身イライラしたのは確かだしな。
「さあ午前の筆記試験、頑張りましょうねアビロス」
そう言って微笑んだステラは、まるで天使のようだった。
◇◇◇
筆記試験が終わり、午後の実技試験がもうすぐはじまる。
「ここが実技試験の会場か」
会場は小さめの、簡易的な円形闘技場だった。
観客席には、試験待ちの受験生たちがそこそこいる。
「アビロス! 今までやってきたことを出しつくしましょう! そうすれば周りのあなたへの見方も変わるはずです!」
ステラが力こぶを作るポーズで俺を送り出してくれた。
恐らくは周りから聞こえる俺の悪評が、ステラにも聞こえているのだろう。なんとかしたいと思ってくれたんだ。
やっぱステラって超いい子だ!
よ~~~し、やる気出てきた! 超絶美少女に応援されてモチベマックスだぜ!
俺は試験が行われるリングへと上がる。
さて、俺の対戦相手は……
「おらぁあ~~俺様の相手をするクソザコはどいつだ~~ビャハハッハ!」
おまえかよ……ヒファロ。
まあいい、思いっきりやってやるぜ。
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