第19話 悪役アビロス・聖女ステラVSオークキング

「―――えいっ!」


 ステラは光の光弾を煙幕代わりに連発して、本命の聖杖でオークキングに一撃を放つ。



 俺も同じく黒い炎を連発して、その隙に間合いを一気に詰め―――


「―――上級重力付与剣ハイグラビティソード!」


 超重力の黒い斬撃を叩き込む。


 左から純白の輝き、右から漆黒の閃光、ステラと俺の強烈な一撃をお見舞いする。



「フゴォオオオ! お、オンナにさわられた~~、おまえスゴクいい~~」



 頭の王冠を揺らしながら、興奮した様子でステラをゲヘゲヘと見るオークキング。


 ステラの強烈な一撃を喜んでいる!?


「き、気持ち悪いわね! アビロス……ほとんどダメージを受けていません!」

「クソ、硬いな……ステラ! もう一回いけるか!」


「ええ! 大丈夫です!」


 俺たちは再び連携を取り、強烈な一撃を見舞った。


 が、再びケロッとしているオークキングの雄たけびが、ダンジョンにこだまする。

 その後も何度も攻撃を加えた俺たちだったが、結果は変わらなかった。


 おかしいぞ。ゲーム原作でもかなりの強さを誇るオークキングだが。ここまでの耐久性は無かったはず。


「―――アビロス! 試してみたい魔法があります!」


 ステラが聖杖を掲げて聖魔力を集中しはじめた。今までとは違うパターンだ。

 なにかとっておきがあるようだな。


「―――よし! こっちは任せておけ!」


 俺は黒い炎を連発して、オークキングの体全体にまんべんなく命中させる。

 オークキングの注意をこちらにひくためだ。


 さほどダメージは与えられないが、消えない炎を手で払わせることで時間は稼げる。


「フゴォオオオ! お、オマエじゃま~~はやくシネェ!」


 オークキングはその大きな両腕を振り回しながら苛立った声をあげる。

 子供の癇癪のような攻撃をかわしていると、ステラの声がうしろから飛んできた。


「アビロス! 準備完了です! そこどいてください!」


 ステラの聖杖が今まで以上の輝きを放っている。

 すげぇ魔力だ。聖魔力を凝縮しているな。



「天に煌めく慈愛の女神よ! 願わくは我にその御心を分け与えたまえ! 聖なる光輪よ邪を打ち払え! 

 ――――――上級聖輪魔法ハイホーリーリング!!」



 ステラの聖杖から、純白の輝く刃が巨大な輪となってオークキングに直撃した。


「すげぇ……」


 神々しいまでの光の一撃に、ちょっと惚れ惚れしてしまった。


 しかし良く考えたら、これゲーム後半で習得する聖魔法だな。

 おまえ、ゲーム開始前にカンストする気かよ……


「どうですか! この変態モンスター! 大人しく地にかえりなさい!」


 ビシッと決めセリフを叫ぶ聖女さま。

 よし! 流石にこれで……



「フゴォオオオ! お、オンナのマリョクぅうう! お、オマエいい~~!」



 オークキングは胴体に切り傷がついてはいるが、今だその活力は衰えていない。いやむしろ高まった……!?


 嘘だろ……高濃度の聖魔力を凝縮した刃だぞ……ゲームなら完全にやつを両断しているはずだ。



「アビロスもう魔力が……」


 ステラが聖杖を支えに片膝をついて、俺に視線を向ける。


 魔力が尽きたか。俺も使えてあと1回ってところ。


 しょうがねぇなあ……若干気は乗らないが。


「ステラ、ここは撤退だ」

「え、何を言っているのです! アビロス!」


 ステラは再び立ち上がる。その瞳から強い闘志を感じる。


「生き残れば次がある!」

「そんな! あきらめるんですか!」

「ここで死んだら終わりだ! 頼む俺の言うことを聞いてくれ!」


「わかりました……たしかにアビロスの言う通りですね」


 ステラは少し冷静を取り戻したのか、渋々ながら頷いてくれた。


 現状勝てる要素がない。

 このオークキング、俺の原作知識をはるかに超える耐久力だ。


 クソ……完全に読み違えた。


 それに俺の原作知識通りなら―――


「フゴォオオオ! は、はんげきダァアアア~~」


 オークキングの身体が茶色い光を放ち始める。


 オークキングは今まで守りに徹していたのではない。

 溜めていたのだ。


 キングの大技、土属性の特殊攻撃【オークブレス】発動のために。


「ステラ! 俺につかまれ!―――重力減魔法グラビティダウン!」


 俺とステラがフワリと浮き始める。


「キャッ! 浮いてどうするんです? アビロス」

「口閉じてろ! 跳ぶぞ!」


 さあ、残りの魔力……全部くれてやる!


「漆黒の闇よ、その黒き炎で照らし尽くせ!

 ―――黒炎照射魔法ブラックレーザー!」


 黒い炎をブースターにして、後方へ!



 ――――――跳ぶ!!



 そこへ巨大な岩の弾丸が機関銃のように飛んでくる。

【オークブレス】だ。


 だが俺たちの速度はグングンあがる。岩の弾丸よりも速く―――


 これは相当なGがかかるな。ステラは何が起こっているのかわからず、顔がこわばっている。できるだけ空気抵抗にさらされないように、彼女の頭を俺の胸に引き寄せて腕で覆う。


 そのまま俺たちは、岩の弾丸の射程外にまで退避した。


「ふぅ~~初めて使ったがなんとかなったな」

「ちょ! アビロス! なんですか今の! 舌を噛むところでしたよ!」


 いや、だから口閉じてろって言っただろ。


 これは俺の【闇魔法】応用技だ。体を軽くして、黒い炎をロケットの推進装置にして高速移動する。

 でも、コントロールがイマイチだった。ぶっちゃけ壁に激突したら即死してたしな。


 まだまだだな……学ぶべきことは山ほどある。


「さあ、ここまで来れば大丈夫だろう」

「ええアビロス……でも私たちの卒業試験は……」

「ああ、作戦の練り直しだな」

「え? アビロス?」

「だから、ダンジョン1階層にもどって野営だ。体力魔力を回復させてリベンジマッチだ」

「ええ? 私てっきりアビロスは試験を諦めたのかと思ってました」


 んん? なんだステラ? もしかして卒業試験を諦めるつもりだったのか?


「そんなわけないだろ、ここは一時撤退しただけだ。まだ時間はある。倒すまでやるぞ!」

「ええ! そうですね、アビロス!」


 そして、一階層へ向かうおうとした時だった。


「あ、アビロス! この地響き」


 通路の奥から徐々に近づいてくる影。

 オークキングだ。


 キングは走りながらも再び【オークブレス】の発射体制に入っていた。


 ウソだろ!? なんのためもなしに連発する気だ。

 ゲーム原作であれば、一度放てば再び長いためが必要となる。


「チッ……原作通りじゃねぇ……」


 これはさすがに終わったのか? 万策尽きたのか?


 いや―――


 違うよなぁ~~~


 5年前、あの時に決めたんだよな。


 破滅回避? ストーリー改悪? 今はそんなこと関係ねぇ……決めたんだよ。


 俺はステラの前に立ちふさがり【オークブレス】を真正面から受け止める。



 ――――――こいつは絶対守るってなぁあああ!



「おらぁああああ!! ヘイトキャラの生命力なめんなよぉおお!」



 ハハッ、久々にゾクゾクしてきやがったぜ!







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