第20話 悪役アビロスの望みと聖女ステラの決意

「うおぉおおおおおお! 不屈の肉壁アビロスシールド!!」


【オークブレス】、岩の弾丸が次々と俺の身体に打ち付けられる。


 痛くねぇ―――



 てのはウソだ! めっちゃ痛いぃいいい! が耐えるぅううう!!



 耐える耐える耐える!


 怒涛の攻撃に足元がぐらつく。なにやってんだ!


 ここで吹っ飛ばされたら、後ろのステラに当たるだろうが!


 俺は気合で岩の雨を防ぎ続けた。


 最後の弾丸が俺の身体に弾かれる。


 なんとか切り抜けた……地獄の5年と俺特有のヘイト耐性に感謝だな。

 全ての弾丸を受け切った俺は、オークキングが硬直しているのを見逃さなかった。


「隙だらけだぜ! そらぁ!」


 俺は最後の力を振り絞って、剣をオークキングの片目に投げつける。


「フゴォガアァアア!」


 意表を突かれたのか、顔を掴んで転げまわるオークキング。


 これで時間ができた。俺はもう動くことすらできんがな……

 ―――っ、両足の感覚がない。折れてるのか消失したのか。

 膝から地に崩れ落ちながらも、力を振り絞ってステラに声をかける。



「よし……ステラぁ……今の……うちだ」


「なにがよしですか! なにが今のうちですか!」


「……ああ?」


「アビロス! なんでこんな無茶をしたの!」


 いや、だから俺は……というかこんな押し問答している場合じゃない。早く……


 フワリといい匂いが俺を抱き起した。


 ステラは必死に回復魔法を詠唱しはじめる。魔力など尽きているのに。


「バカ野郎……俺のところに来る元気があるなら……逃げろよ」

「なに言ってるんですか! あなたを置いて行けるわけないでしょう!」


 そもそも聖女ステラのゲームキャラ設定は全てを救う者。基本的に誰にでも救いの手を差し伸べる性格だ。

 だから簡単には見捨てられないのだろうが……


 アホか……俺に構うなよ。


 俺は悪役キャラだぞ。


 転生後は、クズ行為をしていないが、それでも幼少の頃からの俺へのヘイトは消えている訳がない。


 救う奴を見極めろよ……たく、この聖女は。


 俺の言葉に構わず、ヒールを詠唱し続けるステラ。


「だからさっさと行け……無駄な事をするな……」

「嫌です! 諦めませんから、私! 回復魔法ヒール! 回復魔法ヒール! 初級魔法分ぐらいの魔力は絞り出してみせます! 回復魔法ヒール!」


 だが、ステラの魔力は完全に底をついているのだろう。

 ステラの詠唱の声だけがダンジョンに響く。


「なぜ……そこまでするんだ……?」

「それは私のセリフです!」


 どういうことだ?


「私、あまり長くは生きられません……天啓で聖女の力を得た時に、慈愛の女神さまに告げられました」


 あ………


 ステラの言ってるのはゲーム上の設定のことだ。

 彼女は聖女の力を得るのと引き換えに、余命10年ほどに寿命が縮まる。

 だが、それはゲーム主人公の覚醒イベント「聖女の口づけ」を交わすことで解消されるんだ。


 どのルートのエンディングでも、ゲーム主人公と共に幸せに天寿を全うしたと出てくる。


「でもそれはいいんです! 悲しくないと言えば嘘になりますけど、私の力で多くの人が救えるなら! でも……」


 ああ、それでか……ステラが時折みせる悲し気な表情は。

 俺はゲーム原作を結末まで知っているから気にならなかったが、現状のステラの気持ちがわかっていなかった。


 今の彼女は不安まみれじゃないか……


 クソ……なんで気付かなかったんだよ。


「でも、私の生きている間にアビロスが居なくなるのは嫌です……」


 ステラの綺麗な瞳からポトポトと雫が落ちる。


「ステラ……」


 なんだか俺の心が温かくなる感じがする。

 そして、ステラを死なせたくないという想いがより強まっていく。



 ああ、そうか……わかった。



 俺は惚れてたんだな、ステラに。



 5年前から……


 ハハッ、そうか。単純な理由だったんだ。


 そりゃわかんねぇわ。

 前世でも、ゲーム上でしか恋人なんかいなかったからな。


 だったら――――――


 なおさらステラを死なせるわけにはいかねぇな!


 5年前からずっと変わらない俺のポリシー。

 こいつを守るってことだけは変わらん。


 俺はなお発動しないヒールを詠唱し続けるステラの手をとった。

 小さいな……擦り傷まみれだが綺麗な白い手だ。



「もういいい……行くんだステラ……それが俺の望みなんだ」



「……わかりました、アビロス」


 ふぅ、ようやく頷いたか。この頑固聖女め。


 へへ……やはり俺は破滅する運命だったか。


 ストーリーを改変しようとしても、死の運命からは逃れられなかったようだ。

 悪役から、単なるやられ役になっただけか……目も霞んできやがった。


「いいですよね? アビロス」


 ああ、てか早く行け。オークキングもそろそろ起き上がるぞ。


「はじめてなんですからね……アビロス」


 だから、さっさと行けよ……ん? はじめて―――!?


 なんか柔らかいものが俺の口に……


「んっ……」


 なんかステラ変な声だしてないかって―――!?


 おいおいおいおい~~おいぃいいいいい!! 



 まさか―――「聖女の口づけ」やっちまったのか!?



 俺とステラを純白の光が包み込む。



〖―――聖女ステラ、その男に聖女の奇跡を与えます。よろしいですか?〗


 なんだこれ、俺の頭になんか声が入って来る。これ、女神の天啓イベントじゃないのか!

 てことはこの声は慈愛の女神の声か! これ祝福の光じゃないのか!


「はい、女神様」


 はいじゃねぇええ! ゲーム主人公どこいったんだよ!


〖わかりました。あなたが選んだのであれば間違いはないでしょう。アビロスに聖女の奇跡を与えます〗


 いや、ちょっと待て! ストーリー改変しすぎだろ!


〖それと、ステラ。心より助けたいという穢れなき深い慈愛の心を示したことにより、あなたへ課された命の制限は消滅しました。〗


「え……女神様。じゃあ私はアビロスとずっと一緒に……」

〖ええ、アビロスと共に歩みなさい。天寿を全うするまで。〗


 え? 何言ってんの? 話が脱線してますよ。あと俺も聞いてるからね。


「えと、女神様。その、アビロスたぶん他の女の子にも人気かも……」

〖ステラ、最初が肝心です。徹底的にアビロスをわからせてあげなさい〗


 はい? 何の話してんだ? この女神は何を言ってるんだ?


「ああ……女神様。ありがとうございます」

〖では、2人の道に慈愛の祝福があらんことを―――〗


 いやいやいや、2人で勝手に話終わらせてんじゃねぇええええ!! 


 祝福の光が俺の傷を全て癒す。

 うお……なんだこりゃ。体力・魔力も湧き出てくる感じだ。


「お、おい。ステラ……」


「は、はじめてだったんですからね……」


「お、おう……」



 ――――――!?



 なんだこれ!?


 俺の身体から闇の魔力が溢れ出してきやがる。しかもいつもとは違う感じの。


 ステラの聖属性魔力とブレンドされたからか?


 もうウダウダ考えるのはやめだ。


 とにかく今は、最優先事項があるよな。

 ストーリーうんぬんを気にするのはそのあとだ。


 目に突き刺さった剣を抜き取り、怒りを露わにして、こちらに突進してくるオークキング。



 やってやる。



 さあ、オークキング―――決着をつけてやるぜ!




―――――――――――――――――――


いつも読んで頂きありがとうございます。


アビロス君、またしても主人公イベントを消化しちゃいました。


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