第8話


 そこは小さな寝室だった。

 窓際の寝台の上で上体を起こしこちらを恐怖の表情で見つめる少女と目が合った。ブレイクスリーは自分の心臓がわしづかみにされたような気がした。頭の中が真っ白になる。

 寝間着姿の、まだ幼さが残る少女。

 初めて会う、見知らぬ少女である。同時に、彼女のことをよく知っている気がした。あの思念の投射、そしてそれによって引き起こされた自分の内側の感応──

 少女が何かを言おうと口を動かしかけた瞬間、ブレイクスリーは反射的に動いていた。それは職業的に洗練された鋭い魔術だった。

 放たれた呪文は、対象の少女をいともたやすく魔術的な眠りに陥らせた。彼女の上体はふらりと寝台に倒れこむ。

 これにより、少女とこの家屋との魔術的なつながりは途絶える。歪められた外観と機能が順番に消え失せていき、いくらかの混乱を経過した後、もとの単なる平凡な都市型家屋に戻った。その内部に満ちていた生臭い臭気も消え失せる。

 一瞬、静けさがあった。この家屋の中からあらゆる物音が消え去った。

 ブレイクスリーは、表の通りの群衆から上がる歓声を耳にとらえた。見物人たちにとっては、この魔術師の籠城と審問官の捕り物は、ちょうどいい見世物だったのだ。抵抗する方と捕えようとする方、どちらが負けても、見ている分には関係ない。自分とは関係のない誰かが痛い目を見るのなら、それは愉快なことなのだ──ブレイクスリーは、かっと頭が熱くなるのを感じた。

 どういうわけだか、抑えが利かなかった。いつもならば、職務中は押し殺している自分の感情が、いまこの場においては……

 いつの間にか息が浅くなっていた。苦しさを感じる。自分のかすれた呼吸音が聞こえる。

 ──俺はいま、なにをしようとしている? ブレイクスリーの心の中には、いま自分がとろうとしている行動の形が浮かんでいたが、しかし、その行動の意味付けをうまく行えないでいた。なぜ俺は、このように大それたことを考えているのか? なぜ俺は、あってはならないことを実行しようとしているのか?

 ただ、彼の心の奥底、無意識下においては、すでに覚悟が決まっていた。

 俺は、ここで、いま──

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