第7話


 魔術師がその部屋の中にいるであろうことは、一目瞭然だった。

 入口は赤くただれた肉の襞で塞がり、それを中心として血管とも筋繊維ともつかない生体組織のまがい物が、血膿を滴らせながら壁に張り付くようにして放射状に広がっている──

 ブレイクスリーはおもむろに剣を抜き放つと、入り口をふさぐ肉の襞を鋭く切り払った。刃の入った分だけ空間は開けたが、その奥に詰まっている肉やら臓物の襞が重力に従ってゆっくりと落ちてきてまた入り口をふさごうとする──

 外套の襟を口元まで引き上げ、ブレイクスリーはその中に突入した!

 柔らかく、濡れていて、生暖かい感触。全身が埋もれていくのを感じながら、それをかき分け、手探りで前進していく。

 ──同時に、ブレイクスリーはある奇妙な思念を感じ取っていた。それは原始的な精神感応であり、この魔術によって作り出されたおぞましい肉の襞との接触によって感じ取ったものだった。

『怖い』とその思念は告げていた。

 ブレイクスリーが前進するにつれてその思念も強まっていく。

 怖い、恐ろしい、嫌だ──どうして、魔術師なんかに! 魔術師王の落し子、穢れた血! 哀れで、惨めだ。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ──あんな恐ろしく、おぞましい仕打ちを受けないといけないなんて、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ──

 ブレイクスリーの喉の奥が狭まった。息が苦しく、胸が締め付けられる。

 前方より投射される思念の波──しかし一方で、どういうわけか、ブレイクスリーの内部にも、なにか疼きのようなものが引き起こされる。

 馬鹿な──とブレイクスリーの精神の論理的な側面が戸惑った。

 これは精神操作の魔術か? ……いや違う。これは自分の深層で起こっている現象だ。この投射されている思念が内側に入り込んできたのではなく、仮面の裏側に押し殺してきた真なる自分の──

 その時、ついにもがき進むブレイクスリーの指先が肉の襞を突き破り、向こう側の空間へとたどり着いた。

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