第6話
ブレイクスリーが放った解呪により、戸口の扉は一呼吸の間だけ、本来の姿をとりもどした。すぐにまた歪み、鋭い牙が生え変わり、通るものすべてを嚙み砕こうとしはじめるが、二人の審問官はすんでのところで家屋内部への侵入に成功した。
ブレイクスリーは素早く周囲を見渡す。
あの醜怪な外観と比べると──その薄暗い内部はずっと歪みが少ないようだった。ただし、その閉じた空間には強烈な獣の吐息のような強烈なにおいが立ち込めている。
「うへえ」と審問官ロスは仮面の上からでも分かるほど顔をしかめて見せた。
「……ブレイクスリー先輩は、よく平気な顔をしてるっすね」
「油断するなよ。すでに相手の懐だ。何が起こるか分からない」
「して、その相手本人はどこにいるんです?」
二人は背中を合わせて周囲を探るが、しかし人の姿は見当たらなかった。少なくとも、この階には他に誰もいないらしい。
「この魔術が人間の頭を擬したものだとすると──」
ブレイクスリーは天井を見上げた。
「──脳天かもしれないな」
二人は階段を探り当てると、前後を警戒したままそれを登り始めた。
……しかし、それがなかなか登り終えない。どれだけ足を動かしても、まだ上の階にたどりつかなかった。
後方を警戒するロスは、いらだたし気に声を上げた。
「この階段いつになったら終わるんだ!」
「空間が歪められているんだ。しかし、さほど高度な魔術ではあるまい。黙って登っていればそのうちたどりつくだろう」
「けっ──」
しばしの間だけ口を尖らせて黙っていたロスだが、やがて無言でいることに飽きたのかまた口を開く。
「そういえば、ブレイクスリー先輩。さっきこの家を取り囲む人混みのなかで、この家のおばさんが縋りついてきたんすよ。たぶん、魔術に目覚めたやつの母親なんでしょうね。そのおばさん、おれに向かってなんていったと思います?」
「……」
「こうですよ。『審問官さん、どうか、あの子を捕まえないでやってください。どうか、殺してやってください』ってね。……ねえ、ブレイクスリー先輩。堅気の連中からすると、魔術の能力に目覚めた人間っていうのは、死んだ方がいい存在なんでしょうね」
「……」
「だとしたらおれたちは死ぬよりひどい目にあっているってことになる。……ふん! そうかもしれませんね。睾丸を引っこ抜かれて、王権にはこき使われて、堅気の連中には侮蔑されて──ねえ、ブレイクスリー先輩。果たしておれは、死んだ方がいいんすかね? ──それにあんたも」
「……黙れ。ついたぞ」
二人はようやく、最後の一段にたどりついた。
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