第3話 紫陽花屋敷へ

 息を切らしながら俺は紫陽花屋敷へたどり着いた。 

朝から雨が強く降っていたから、傘を差して急いで来た。


 学校なんかに行きたくない。この世のものじゃない奴らばかり見えてうんざりだ。

クラスでは地味に目立たなくしている。さっきは学校を抜け出したから目立つか。



 幼い頃から幽霊やこの世のものではないものが見えた俺は周りから変な目で見られたり、いじめられたりした。

幽霊が見えるなんて言っても信じてくれないだろうし。だから人は信用したくない。

でも、紫だけは違った。

彼女だけは信じてくれたし優しくしてくれた。



───紫を助けたい。無事でいてほしい。



 屋敷の玄関の戸は開けづらく、力を入れて中に入る。


 「ケホッ…埃くさいな」


 顔をしかめ軽く咳き込む。中は薄暗く少し周りが見づらい。懐中電灯くらい持ってくれば良かったと少し後悔した。

 

 顔を上げた時、俺の目の前に白髪で白い着物を着た少女が現れた。

おかっぱで両方の髪に赤色の髪紐かをつけている。

背格好は小3か小4くらいの子で、年は9歳くらいだろうか。

姿は分かるが白くぼんやりとしている…幽霊か。

今さら驚きはしないが、自分の霊感に嫌気が差す。


 少女は弱々しい声で言った。


 「…お願い、あの子を助けて」


 そう言って俺の前から消えた。

 あの子って誰だ?──紫のことか?


 今は幽霊なんてどうでもいい。早く紫を助けて帰ろう。いつまでもこんなところにはいたくない。


 差してきた傘を玄関を置き、大声で叫ぶ。


「紫、どこにいるんだー?俺だ、優也ゆうやだ!」


 ──呼ぶが反応はなかった。


「クソッ、どこにいるんだ…紫、頼むから無事でいてくれ…!」


 焦りと不安が入り交じる。

 

 昨晩、紫に(※)ポケベルでメッセージを送ったが気づいてくれるだろうか。

俺と紫は携帯電話や(※)PHSは持ってないし、ポケベルしか持ってない。

高1だし、携帯電話とかはクラスで持ってる人数は少なく、ポケベルは小型で長方形くらいのサイズだから持ちやすくて便利だ。

一応、制服のズボンのポケットに入れて持ってきた。



 ギシギシいう長い廊下を歩き、手当たり次第に戸を開け中を確認する。

木造で立て付けが悪くどこも開けづらい。 

…よく屋敷は崩れたりしないな。

俺が生まれる前からずっとあったらしく、何度も取り壊しの話は出ているが、そのたびに事件があってそのままになっている。



 次の戸を開けて中に入った時、強烈な臭いがして足元に何かあたった。


 「…っ!!」


 鼻と口を手で押さえて見たら、それは腐敗した死体だった。  

驚いて声もでない、吐き気が襲う。


 死体はうつぶせになっていて顔は見えない。

見えた時、服装や身なりからして多分、男性だと思った。

彼の左腕には数珠をつけており、ボロボロになった紙切れ─お札らしき紙を持っているのがちらりと見えた。霊媒師とかだろうか。


 一刻も早くここを出たいが、紫を探さないといけない。

中をざっと見回し急いで確認をした。

…どうやら、ここにはいないみたいだ。

少しは安心したが紫が心配になり、早く出て違う戸を開けた。


 中に入りあたりを見渡す。

暗くてあまりよく見えないがどうやらここは物置みたいだ。

うっすらと奥には桐たんすや木箱とかがあり、床が少し散らかっている。


──ゴソッ

奥から物音がした…誰かいるのだろうか?


「…おい、誰かいるのか?紫か?」


 声をかけ様子を見る。奥から人が出てくる。


 

(※)ポケベル…「ポケットベル」の略。

小型の無線受信端末。受信するだけで送信することはできない。通話もできない。

メッセージを送信するには固定電話や公衆電話を使う必要があった。


(※)PHS…「Personal Handy-phone System」の略。

携帯電話の一種で、通話品質が良く通話料が安いが、遠距離になるほど料金が高くなる。

携帯電話との違いは電波が届く範囲など。














  
















 


 















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