第二十八話

「ねぇ、ジェイク。夜ご飯は食べるの?」

「勿論。でも、もう少し俺はこのままが良いな」


 私達は生まれたままの姿で横になっていた。ベッドの中で尻尾を絡ませ合い、私はジェイクに腕枕をしてもらっている。本当は少し眠りたい所だけど、このまま寝過ごしてしまいそうだったので、こうして彼に甘えながら、ゴロゴロしているという訳だ。


「ハァ……」


 私はジェイクの腕の中で溜息を吐いた。結局、怖くて最後まで致す事はできず、不完全燃焼で終わった。ジェイクはそれでも良いと言ってくれたが、本当にそれで良かったのだろうか? ジェイクの彼女になったのだから、体格差はあれど、痛くても我慢するべきだっただろうか?


「おい、なんで溜息を吐いてるんだ?」


 ジェイクの質問に私は肩をビクッと震わせる。最後まで致す事ができなかったからだとは言えず、話題を逸らす為、「明日、進路相談があるのよ」と深刻そうに答えた。


「あぁ、進路の事か」


 ジェイクは納得したのか、私の長い髪を梳くように撫でてきた。


「うん。先週、先生と一対一で面談があったでしょ? 私は風邪で休んだから、明日、面談するだろうなぁって」


 私達は高校三年生だ。そろそろ希望の進路を決めなくてはならない。どこの大学は行きたいのか、大体の目星は付けているのだけれど、もっと気合い入れて頑張らなくちゃいけないと思っていた。


「あー、受験やだなぁ。ジェイクはどこ行くか決まってるの?」

「シャム国立大学の経営学部を受けるつもりだ」


 サラリと答えたジェイクの言葉を聞き、私はベッドから勢いよく起き上がった。


「シャ、シャム国立大学!? 国内一の大学を目指すのね!」

「あぁ。これからは学業と並行しながら、仕事もこなしていくつもりだ。高校までは学業優先だったけど、跡取りとしての仕事にも慣れていかないとな」


 そっか……じゃあ、また離れ離れになっちゃうのか。


 私が少し寂しく思っていると、「ステラはどの学部に興味があるんだ?」とジェイクが聞いてきた。


「うーん、食物系の学部かなぁ。ほら、ママが料理の仕事してるでしょ? 私も将来、そういうお仕事に就きたいなぁーって、考えてるの」


 そう答えると、ジェイクは納得したように微笑んでくれた。


「そっか、いいじゃん」

「そ、そう?」

「うん。ステラは元々食べるの好きだしさ。興味のある事をどんどん学んでいったら良いんだよ」

「えへへ、そう言ってくれると嬉しい」


 私は少し照れくさそうに笑うと、ジェイクも身体を起こして、少し考え込むような仕草をし始めた。


「確か……シャム国立大学にも食物系の学部があったよな?」

「あ、あったと思うけど」


 うろ覚えだけど、栄養学部系の学科があったような気がする。進路室で見ただけだけど、調理室も立派だし、学生が考えたメニューが食堂で食べられるとか書いてあった気がする。


 しかし、話の流れ的にとっても嫌な予感がした。私は少しずつジェイクから距離を取ったつもりだったが、すぐに壁際に追い詰められてしまう。


「えーっと。な、何か? アハ、アハハ……」


 私は引き攣り気味に愛想笑いをしていたが、逃げられないように手を掴まれてしまい、ジェイクにニーッと微笑まれてしまう。


「ステラ」

「な、何でしょうか?」

「一緒にシャム国立大学を目指そう」

「……拒否権は?」


 笑顔で「ない」とキッパリ断言されてしまった。


(ハァァ……やっぱり、こうなるのね。受験までの数ヶ月間。毎日勉強しないと合格できないわ)


 こうして私は最後の高校生活を、ジェイクと一緒に勉強漬けの毎日を送る事となってしまい、頭を抱える事となってしまうのだった。

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