第十一話
「何? あの店は……」
「何って、ジュエリーショップだ。今から指輪を見るんだから、そういう店に行かないと売ってないだろ?」
そりゃ、見たら分かるわよ! ジェイクにそう突っ込みを入れようと思ったのだが、扉の前に黒のスーツを着用した背の高い女性店員と目が合ってしまったので、私は咄嗟に口を噤んでしまった。
「ご来店ありがとうございます、ムーア様」
「あぁ、ジェシカ。いつもありがとう」
銀色の長い髪を一つにまとめた綺麗な女性店員が、明らかに年下のジェイクに向かって、深々と挨拶をしている。
その光景を見た私は唖然としてしまった。
(ジェイクったら、この綺麗な店員さんを名前で呼んだわ! この二人はどういう関係なの!? それにこのお店、百貨店に入ってるハイブランドと同じみたいだし、私みたいな、ちんちくりんが入ってもいいのかな……)
(はぁ……どうして、一般庶民の私がここにいるんだろう。完全に場違いじゃない。なんか胸焼けしてきたし、早くお家に帰ってママの手料理が食べたいなぁ……)
ジェイクが手の届かない殿上人なのだという事を改めて実感し、少し気持ちが落ち込んでしまった。私が悶々としていると、女性店員に入店を促され、店に入ろうとしたジェイクが立ち止まり、こちらを振り返ってきた。
「おい、ステラ。いつまでそんな所に突っ立ってるんだ。早く入ってこいよ」
「え!? い……嫌よ! 私はここで待ってるから、ジェイク一人で行ってきて!」
私は自分の発言に嫌気が差し、バツが悪くなって、ジェイクから目を逸らしてしまった。
やってしまった……。いつも男の子と言い合いするみたいな感じで言っちゃったから、ちょっと棘のある言い方になっちゃった。
「もう、私の馬鹿……」
私は強がったものの、少し泣きたくなってしまった。こんな表情は見られたくなかったので、近くのトイレに逃げ込もうとしたのだが、ジェイクに腕を掴まれてしまった。
「コラ、どこに行く気だ?」
「化粧を直しにトイレに行くの」
「化粧直しなんて嘘だろ? そんな緊張しなくていいから、早くこっちに来い」
ジェイクは私の手を握り、強制的に店の中へ連れ込もうとしたが、私は尻尾を足の間に挟み込み、最後まで店に入りたくないと抗議していた。
「うぅ〜〜、やだやだやだ。私、場違いだもん!」
「そんな事ないって。ステラに似合いそうな宝石が沢山あるんだから、俺が選んでやるよ」
俺が宝石を選んでやるって? 私、ジェイクの彼女でもなんでもないのに? なんで私みたいな意地っ張りな女に、そこまでしてくれるのよ……。
私は耳を伏せて警戒しながらも、結局、ショーケースの前に置かれているフカフカのソファに座らされたのだった。
「ほら、ステラ。自分の目でも見てみろよ」
「……っ!」
私は目の前の光景を疑った。キラキラと輝くカラフルな宝石達から、ブライダルリンクの定番とされるダイアモンドをあしらったシルバーの指輪が、ショーケースにズラリと飾られていたのだ。
「すっごく綺麗……」
普段はアクセサリーに興味のない私でも、あまりの美しさに目が釘付けになってしまっていた。
「だろ? ここの宝石は俺の会社が卸してるんだ。良かったら好きなの選べよ。初デートの記念に俺が買ってやるから」
「え!? す、好きなのって……」
私は困ってしまった。照明の反射で虹色に光輝く宝石達はどれも美しくて、デザインも学生の私が身に着けるには大人っぽすぎる物ばかりだったからだ。
(どうしよう。絶対高いに決まってる! こんな高価な物、ジェイクに買ってもらう訳にはいかないわ! うーん、なんとか手持ちのお金で買える物はないのかな?)
私はとりあえず、手持ちで買える物を探してみた。宝石だけが付いているシンプルなネックレスに目をつけ、商品タグに記載されている値段を見て、ギョッとしてしまった。
(0が1、2、3………5つ!? 嘘でしょ、あっちは0が6つ!? 一番安くて10万ダルクからなの!? うぅん、駄目……こんな高価な物、同い年のジェイクに買ってもらうわけにはいかないわ!)
一気に冷や汗が出てきた。高いはずだと思っていたが、シンプルなネックレスでもここまで高いとは思わず、私は一気にテンションが下がってしまった。
「ジェイク……気持ちは嬉しいけど、こんな高価な物は受け取れないわ」
「なんで? 俺が良いって言ってるのに?」
ジェイクが不思議そうに首を傾げたのを見て、やはり、彼は一般庶民の感覚ではないのだなと感じた。
「だって、私まだ高校生だし。こんな高価な物は、とてもじゃないけど身に着けられないわ。ゆ、指輪なんて意味ある物は余計に着けにくいし……」
「そうか、わかった。なら、俺が別のアクセサリーを選んでやるよ」
えっ……な、なんでそうなるの? 高校生の私にはまだ早いって言ったのが聞こえなかった!?
「ちょ、ちょっと……ジェイク!」
「なんだ?」
ジェイクはショーケースに並ぶ宝石達と睨めっこしながら、私の呼びかけに応えた。
「人の話を聞いてた? 私、こんな高価な物は受け取れないって言ったんだけど!」
「うん、聞こえてた。けど、どうしても俺がステラにプレゼントしたいんだ。だから、これは俺の我儘。受け取った後は捨てるなり、売るなりしてくれたらいいさ……あぁ、ジェシカ。このピンク色の宝石の付いたネックレスを取ってくれ」
ジェイクの要望を受けたジェシカは、「かしこまりました」と返事をして、ショーケースからドロップ型の濃いピンク色の宝石を取り出してきた。
「こちらの宝石はインカローズでございます。お嬢様は肌が白いですし、きっとお似合いになりますよ。宜しければ、着けられますか?」
「あ……いえ、私なんかが着けられないです……」
本気でそう思ったので遠慮しようとすると、「ステラ、着けてみてくれよ。俺が選んだネックレス、絶対に似合うと思うんだ」とジェイクが断るに断れない状況を作ってきたので、私は渋々了承したのだった。
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