第八話
(……どうしてこんな事になってるの?)
今日、ジェイクにデートに誘われたが、私が思い描いていたデートとはかけ離れたものだった。
私が想像していたデートとは、繁華街に出てケーキを食べた後、ショッピングや映画を見たりして、バイバイするものだと思っていたのだが――。
(どうして、私は車に乗って高速道路なんかに乗ってるのよーーーー!)
今の状況を説明しよう。私は殿上人のみ乗る事が許された黒塗りのリムジンに乗り、ケーキを食べる為だけに高速道路に乗っている。しかも、初めて執事なる者も見た。こんなのドラマだけでしか見た事ない。
しかも、今、私達が向かっている場所はあのチュールトンホテル。国内でも有名な五つ星ホテルで、超有名芸能人達やスポーツ選手権が、こぞって挙式すると名高いホテルでもある。
(私、まだ高校生よ!? お母さんに渡された小遣い程度のお金しか持ってないのよ!? ジェイクと付き合ってるわけじゃないんだし、絶対に割り勘がいいんだけど……し、支払えなかったら、どうしよう!!)
私は当然の如く、カチカチに緊張していた。
リムジンに乗るのも高級ホテルに行くのも初めてで。こんな事なら、動きやすいスポーティな格好ではなく、いつもミラが着ているような可愛いフリルの付いたお洋服を着てくれば良かったと、心底後悔していたのだった。
「ステラ」
「は、はい! なんですか!?」
私の緊張したような顔を見たジェイクは、プッと吹き出してクックックと笑い始めた。
「緊張しすぎ」
「だ、だって! こんなリムジンで来てくれるなんて思ってなかったんだもん!」
「俺は世界有数企業のムーアグループの跡取りだぞ? 普通の学生がするようなデートはしない。それにケーキとお茶を飲めば、その緊張だって和らぐさ。せっかくのデートなんだ。一生忘れられない最高の日にしてやるよ」
そんな真剣な表情で言わないで欲しい。不覚にもドキドキしちゃったじゃない! 後、さりげなく尻尾を絡めて恋人繋ぎしてこないでよぉぉ……!!
「ジェイク……恥ずかしいから、離して」
「嫌だね。これは学校で俺を避けてた仕返しだ」
ぐぬぬ……やはり、根に持っていたか。
私はジェイクを見る度に保健室での一件が脳裏を
私が露骨に視線を逸らして以来、ジェイクがムスッとした顔をしていたのは知っている。知ってたけど、展開があまりにも急すぎるのよ!
真っ赤な顔をして黙り込んでいる私を見たジェイクは、意外にも申し訳なさそうな顔をして、「悪かったよ」謝ってきた。
「な、なによ、いきなり……」
「保健室での件。あれはさすがに性急すぎた」
「そ、そうよ! あれは本当に……」
とっても怖かったんだから……と耳と目を伏せながらそう呟くと、ジェイクは「怖がらせて、本当に悪かった」と言って、絡めていた尻尾を離してきた。
(あ……尻尾が離れちゃった。ちょっと残念――って、何を考えてるんだろう、私は!? なんで今、少しでも残念だって思っちゃったの?うぅ、空気に呑まれちゃ駄目よ!! 早く、普段の私に戻らなきゃ!!)
そう思った私は車の窓から景色を眺めていると、ある建物が目に止まった。
「もしかして、あれ……」
高速道路から少し離れた所に、カラフルな観覧車が人を乗せて回っているのが見える。後は商業施設の中を、親子連れで歩いている家族の姿も。
(海の近くに倉庫街もある。という事は、あれは事件が起こったショッピングモールなのね。そっか……あんな事件があったのに、なにも変わってないのか)
昔、誘拐事件が起こった大型ショッピングモールが、当時の姿のまま健在している事に、少なからずショックを受けていた。
隣に座っていたジェイクに、「見て、あのショッピングモール……」と話を振ると、あっさりとした返事が返ってきた。
「あぁ、まだ潰れてなかったんだな」
「……うん、そうね」
私は複雑な気持ちになってしまった。あのショッピングモール自体は悪くない。頭の中では、ちゃんと理解している。
だが、私にとったら見知らぬ男に拉致されて、怖い思いをした恐怖の場所でしかないのだ。久しぶりに見ただけなのに、ここまでハッキリと覚えているとなると、自覚していない傷が心に残っているのかもしれない。
暫く何も喋らなかったジェイクは、ポケットからスミャホを取り出し、どこかへ電話をかけ始めた。
誰に電話しているんだろうと耳を澄ませていると、「俺だ。シャム市に建っている大型のショッピングモールがあるだろ? アレを俺名義で今すぐに買い取れ」と連絡していたのだった。
か、買い取るって……なんでいきなりそんな話に!?
私は隣でアワアワと慌てていたが、すぐに話がまとまったのか、「あぁ、宜しく頼む。じゃあな」と言って、通話をオフにした。
「ちょっ……ジェイク!?」
「どうした?」
「どうしたじゃないわよ! あのショッピングモールを買い取るだなんて、どういう事なの!?」
ジェイクの突拍子もない行動に、私は驚きの声をあげると、彼の口から思いもよらぬ言葉が出てきたのであった。
「だって、ステラさ。あのショッピングモールを見て一瞬だったけど、辛そうな顔してたろ?」
「え……」
嘘……顔に出てた? しかも、それをジェイクに見られてたの!?
「だから、あそこは俺が買い取って、建物も全部新しくしようって、今決めた。建物も全部更地にして、建物も新しくしたら、ステラも辛い事なんて思い出さなくて済むだろ?」
ジェイクは綺麗な顔をして笑ったのだった。
私は顔をカアァァッと赤らめ、「……バカね、本当に」と呟き、今度は私から恋人繋ぎをしようと、彼の縞々の尻尾をツンツンと控えめに突く。すると、ジェイクも満足そうに私の尻尾を螺旋状に絡めてきたのであった。
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