第七話
デートの約束をして、保健室から出た私達。気まずい空気が流れる中、ジェイクは「学校を案内してくれたから、お礼に家まで送る」と言ってくれた。
「大丈夫! まだ明るいし、一人で帰れる!」
「俺の気が済まないんだ。車を用意してるから、送らせてくれ」
このままだと押し切られそうだったので、「大丈夫、本当にちゃんと一人で帰れるからっ!」と早口で返事をし、短い足をフル回転させて帰路に着いたのだった。
(ヤバイヤバイヤバイヤバイ! どうしよう……まさか、いつも男の子と取っ組み合いをしてた私が、デートに誘われちゃうなんて思ってもみなかったっ!)
家に辿り着いて、向かった先は自分の部屋。私は部屋に入った途端、その場にしゃがみ込んでしまった。持っていた鞄が肩からずり落ち、チリンと鈴が鳴る。
「ハァ……これからどうなっちゃうんだろう……」
困ったように独り言を呟いて小さく唸った。人生で一番、心臓がドキドキしていたので、私は顔を真っ赤にさせて戸惑ってしまう。
「ジェイク、すっごく格好良くなってた……」
ボソッと独り言を呟いたが、今言ったのは本心だ。最初は頸を見られたり、人のパーソナルスペースも考えずに迫ってきて、反抗してしまったけど、一人になって考えてみると、やはりジェイクはかなりのイケメンの部類に入ると思う。
(でも、ちょっと怖かったな……)
保健室でされた事を思い出すと、ブルッと身体が震える。
檻の中で出会ったアムちゃんが大きくなって、私に会いにきてくれた。生きてて本当に良かったと思ったし、また会えてとても嬉しかった。
でも、アムちゃんの身体が想像以上に大きくなっていて、保健室で迫られた時は怖気付いてしまった。ただでさえ、50センチ以上の体格差があるんだし、相手はアムール族なのだから当たり前なんだろうけど。
(万が一、ジェイクと付き合う事になったら、デートするでしょ? 一緒に美味しいご飯を食べて、それから――)
ジェイクにキスをされて、ベッドの上でイチャイチャしている姿を想像をしてしまい、私は顔から火が出たかのように熱くなってしまった。
「ないない、それだけは絶対ない!」
私はブンブンと頭を左右に振り、ベッドインはあり得ないと自分に言い聞かせる。あんな体格差で襲ってこられたら、身体が木っ端微塵になってしまうかもしれない。
「うぅ……あれだけ可愛かったアムちゃんも、いつの間にか大人のオスになっちゃったのね」
ちょっぴりショックでもあったが、正直に言うと大人になったジェイクは、なんだかんだいって格好良かったし、顔も正直タイプではある。しかし、体格差を埋める事はどうしてもできないのだ。
私は小さく唸りながら立ち上がり、枕を抱えてベッドに寝転がった。ジェイクと別れてから時間が経っているのに、まだ心臓の鼓動が速い。
「でも……ジェイクと恋人同士になるなら、色んな壁を乗り越えないといけないのよね」
私は世界最小の猫科で、ジェイクは世界最大の猫科の一族。体格差がある上に、絶滅危惧種族保護法案の件もある。
それに彼は貿易会社の跡取りだ。私と付き合っていても、同じ種族の女性とお見合いするかもしれないし。もし、私達が結婚するってなれば、跡取りは作らなきゃだし……。
それだと、生まれてくる子は雑種になるのか。そしたら、私はどうなるんだろう? 赤ちゃんのサイズまで、アムール族みたいに大きくなっちゃったら?
そしたら、お腹破裂しちゃうんじゃない? そしたら、手術台の上に乗って、お魚みたいにお腹を捌いて――うわぁぁぁっ、超えなきゃいけない壁ありまくりじゃん! こんなの絶対に結ばれない恋じゃーーん!
「えーー、どう返事すれば良いのぉぉ……」
私は一人で頭を抱えていると、「おかえり、ステラ! 帰ってたのね!」と私の部屋の扉をノックをしてから、ママがひょっこりと顔を出したので、私は驚いてベッドから飛び起きた。
「た、ただいま……」
尻尾が束子のように膨らんでいるのを見て、ママはどうしたのかと首を傾げていたが、私は「な、なんでもない! 大丈夫だから!」と焦ったように答える。
「何か悩み事? もしかして、彼氏ができたとか!?」
「か、彼氏!? そんなのいないわ! 一人で考え事してるんだから、早く部屋から出てってよ!」
ママは何かを勘違いしているのか、「若いって良いわねぇ〜♡」とニコニコしながら出て行った。
(もう! ジェイクのバカ、バカバカバカッ!)
その日は結局、頭の中がごちゃごちゃしてて、晩ご飯はあまり手を付けられかった。食欲のない私を見て、ママに酷く心配されてしまったが、その日はうまく誤魔化し、とうとう約束の日を迎えてしまったのだった。
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