第一話
「むうぅぅぅぅ……」
雲一つない晴れ模様だが、心はどんよりと曇っている。私がこんなにモヤモヤしている原因は勿論、昨日のニュースで流れていたおかしな法律とAKKIのせいだ。
私は小型通信端末であるスミャホを片手に、大手検索サービスの一つであるキャットニュースを見ながら登校している。
【コメンテーター・AKKIに非難殺到! 絶滅危惧種族保護法案に疑問の声多数!】という見出しで掲載されたニュースは、コメント欄が大炎上しており、既に一万件以上の苦情が寄せられていた。
《ID:mohumohu2》
・これだからジャガー族は!
モラルってもんを知らないッ!
AKKIはジャガーらしく密林へ帰れッ!
二度とメディアに出てくるなッ!
《ID:sunasunaxcat》
・本当、最近のメディアはおかしいよねー。
煽ってるとしか考えられない!
てか、あの法律は何?
政府は頭おかしいんじゃないの?
人権を無視してるし、私達を馬鹿にしてるッ!
国会議員はきっと全員ジャガー族だ!
《ID:juuuunx1》
・でも、俺は異種間の交雑禁止の件は理解できる。
純血種がいなくなるのも
少し寂しく感じるんだよなぁ……。
《ID:mike23x24》
・juuuunx1さんの意見はすげぇ分かる。
獣人差別してる訳じゃないけど
政府も血統や伝統を守りたいっていう
趣旨があるんだろうな。
でも、今回の件で言えるのは
全てAKKIが悪いと俺は思うね。
……と様々な意見が飛び交っていた。
私はスミャホの電源をオフにして、スカートのポケットにスミャホを突っ込んだ。そして、眉間に皺を寄せながらズンズンと歩き出す。
ネット上では新たに立案された法律に対して、様々な意見が飛び交っていたけど、ただでさえ希少種族の件はデリケートな問題なのに、火に油を注いでしまったAKKIが悪いわね!
ま、いい気味だわ! これを機にあんなケバケバしいオバさんはメディアから追放されれば良いのよ! あの人は本当にモラルと常識がなってなさすぎ! それが分かっていない人はテレビなんか出ちゃ駄目よ!
「朝から本当に気分悪いわね、フンだ!」
鼻息を荒くしながら通い慣れた通学路を歩いていると、見慣れた女の子がひょっこりと顔を出した。
そして、私を見つけるなり、泣きながら猛ダッシュで駆け寄ってきたのである。
「うわぁぁぁぁん、ステラァァァァッ!」
「ミラ、どうしたの!?」
ミラ・クローヴィスはサビイロネコを祖先とするサビイロ族の獣人だ。私より明るい茶髪の女の子で目はオリーブ色。サラサラストレートの長髪は私と同じく背中辺りまで長さがある。前髪は眉上に切り揃えられており、少しあどけなさが残るとても可愛いらしい女の子。そして、私の親友でもある。
ミラは私と同じ絶滅危惧種族の一人で、身体もとても小さいが、好奇心が旺盛で人懐こい性格をしているので、皆から愛されている女の子なのだ。
「はぁぁ……最初に会う友達がステラで良かったぁぁ。すれ違う人の視線が怖くて、ずっとそこに隠れてたんだよっ!」
ミラが泣きながら指をさした方向を見て、私は唖然とした。彼女が指を指した先には、細い道路標識の棒が立っていたからだ。
(あれは隠れる意味ないんじゃないかなぁ……)
私は思わず苦笑いしてしまう。あんな細い棒の背後に回り込んだとしても、隠れたとは言わないし、人の視線が集まっていたのも、彼女の行動が不思議だったからだろうなぁ……と思ったからだ。
ミラに教えてあげようかと思ったが、当の本人は三角の耳を頭の形に沿って折り畳む程に怯えていた。とりあえず、私はミラを落ち着かせるのが先だと判断し、彼女を優しく抱きしめてあげた。
「よしよし、泣かないで。私も一番に会えたのがミラで良かったわ。それはそうと、昨日のニュース見た!?」
「あ、見た見たっ! もう、AKKIとあの変な法律が立案されたせいでこっちは本当に良い迷惑ッ! お陰ですれ違う人達全員に変な目で見られたんだから〜〜!」
ミラは頬を膨らませて憤慨していたが、私は違うとは言えず、「うん、そうだね……」と同調したのであった。
「よし! ステラにも会えたし、そろそろ学校に向かいますか!」
ミラは足元に置いていた学校指定の茶色の鞄を背負い直したついでに、
「
「ふふっ、隠れてるから大丈夫よ!」
私達が
だから、年頃の女の子達は生理を迎えると皆、背中辺りまで髪を伸ばし、
勿論、ミラも私もまだそういう事をしてはいない。ただ、
「あ、そうだ! 今日、転校生が来るみたい!」
「転校生? こんな時期に?」
「そうなの! 昨日、お母さんがPTAの集会で噂してたらしいの! この時期に来るって事は、海外からの転入生だねー!」
へぇ……海外からの転入生か。できれば同性が良いな。それに加えて気が合う子だったらもっと嬉しいんだけど。
私はそんな事を思いながら、カバンを持ち直した。
「気が合う子だったら良いわね」
「うん、楽しみ〜〜!」
私達は仲良く手を繋ぎながら、通学路を歩いていったのだった。
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