孤独
今年の夏は例年に比べて終わるのが早かった。
それは逆に秋の訪れが早かったと言い換えることもできる。
そしてやはりというべきだろうか、冬までもが足並みを揃えて駆け足でやってきたのだった。
誰も頼んでなどいないのに。
当地にも昨夜から白いものが降り続けており、テレビのニュースではどこの局でも引っ切り無しに、『ダイヤの乱れ』だの『飛行機が欠航』だのといったような内容を報じていた。
本来であれば私も今日は出勤日だったのだが、今朝早くに会社から在宅ワークへの変更を言い渡され、そのおかげで外界の様子を気にすることなく仕事に精を出すことができた。
あと五分で終業時間という絶妙さで予定されていたタスクの全てをやっつけてしまった私は、成果物を会社のサーバーに送っている時間を有効活用すべく、カメラの死角にあるベッドへと身を投じた。
今年もたったあと一日の出勤で、正月の三が日が終わるまで五日間の休みに突入する。
それは例年であれば趣味と実益を兼ねた旅行に充てる期間だったのだが、いろいろとありすぎた今年に限っては、どうにもそんな気分にはなれなかった。
寝正月とは、実にいい響きではないか。
終業と同時に家を出て、かつて同級生と食事をしたお好み焼き屋で晩飯と少量のアルコールを摂取してから帰宅する。
暗闇の玄関で靴を脱ぎ、そのまま灯りもつけずにリビングの三人掛けのソファーにどかりと座り込む。
するとまだに二十時を少し回ったばかりだというのに、猛烈な眠気に襲われたのだった。
こんな時に家庭持ちであれば、『寝るなら寝室に行ってよね』などと尻を叩いてもらえるのだろうか?
独り身の私はその分だけ気楽で、その分だけ孤独でもあった。
「おやすみなさい」
自分以外の誰もいないリビングに自身の声だけが虚しく響く。
真夜中に目を覚ます。
おもむろにシャワーを浴びると、再び眠りに落ちるためだけにアルコールをあおる。
自分のこととはいえ、なんともはや不健康なことこの上ない。
あの世というものが存在しているとしたら、こんな自堕落な生活をしている息子のことを両親はさぞ嘆いていることだろう。
もっともこの世にいるもう一組の父と母には、すでに何年も前から同様の思いをさせていたのだったが。
「来年はせめて食生活だけでも改善しよう」
あえて声に出し言ってはみたが、この場にはその発言の信憑性のなさをもっとも知っている人間しかいないのだから、まったく以て世話のない話であった。
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