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被害者家族が暮らしていた集落から資材置場まで所要時間は車で五分ほどだ。数キロしか離れておらず、体感としてはとても近い。
周辺の道路の中では比較的広い二車線道路に面して、その資材置場はあった。白いトタンで出来た高い壁に囲われている。その壁は、最近建てられたかのようにとても綺麗でしっかりとしていた。
車で前を通りすぎる。入り口が開いていた。中の様子をちらっと伺うと、一台のトラックが停まっているのが見えた。それと鉄パイプのような物や赤いカラーコーンも置いてあった。今でも資材置場とした使用されているようだ。
駐車できるような場所は周りにはなく、仕方なくハザードランプをつけて、資材置場から少し行った先で路上駐車をした。
車を降り、入り口まで歩いていく。
中の様子をよく見てみると、作業着にヘルメット姿の男性二人が作業をしていた。
一人はトラックに備え付けられたクレーンを操作し、もう一人は荷台の上で、クレーンで吊るされた鉄パイプのような資材を受け取ろうとしている。
私は入り口の外から大きな声でその二人に、お仕事中すいませんと声を掛けた。
操作をしている方の男性が私に気づいた。不思議そうな顔で会釈した。作業が一段落すると、その男性が私の方にやってきた。
私が、昭和五十八年の事件について調べていて、聞きたいことがあるという旨を伝えると男性は「積み込み全部終わってからでいいかな?」と言って作業に戻っていった。
それから五分ほど待つと、作業を終えた男性が私の方へ再びやってきた。もう一人の男性はトラックの助手席に乗り込むと煙草に火をつけた。
男性は「五分くらいで頼むわ」とぶっきらぼうに言った。私は恐縮しながらお礼を伝えた。
私はまず、この資材置場が殺人事件の遺体遺棄現場だったということを知っているかと質問した。
「知ってる知ってる。でもあんまり詳しい事は分かんないなぁ」と男性は頭を擦りながら言った。
男性の話しによると、事件当時ここの資材置場を使用していた建設会社Bは事件から数年後に倒産したそうだ。その際に、男性が働いてる建設会社Cに土地が譲渡され、今日までずっと建設会社Cが使用しているという。
この建設会社Cは南利根町から車で十五分ほど行った加護市にある。この男性もその加護市在住で子供の頃からずっと加護市に住み続けている。男性は五十代で事件当時は十二歳だったそうだが、事件についての記憶はあまりないと言う。
「加護でも騒ぎになってた気がするけど、俺は子供であんまりそれには関心なかったかもなぁ。大人なってから詳しい事知って怖い話しだなとは思ったけどね」
遺族の方が花をたむけにきたりとかはないですか?そう私は聞いてみたが、そういったことは見たことがないという。
男性が腕時計に目をやり時間を気にしている素振りを見せた。
あまり時間を取らせても申しわけないので、これが最後と、ここで不思議な体験をしたり、何か不思議な物を見たりしたことはないかを質問した。
「毎年毎年お祓いしてるからね。そういうことはないよ」
そう男性は言った。
しかし、しばらくすると男性が何かを思い出したように話しを始めた。
「あっそうだ。一回だけあるかもしれない。ここの資材置場って基本は男の作業員しか来ないんだけど、一度事務員の女の人が、ここに差し入れを届けに来たことがあるんだ。そしたらその女の人がここなんか気持ち悪い寒気がするとか言うわけ。帰り際にはさ、小さい女の子の声が聞こえてきて怖いとも言ってたよ。俺たちはまたまたぁって感じで受け流したんだけど……」
今にして思えばあれって殺された女の子の声が聞こえたってことなのかなぁ。と男性は腕組みをして首を傾げながら言った。
遺棄現場だから当然といえば当然だが、男性の言うことが本当ならやはりここの資材置場にも怨念が残留していることになる。
男性たちは何も感じていないのにも関わらず、女性の事務員は恐怖を感じ、小さい女の子の声を聞いたというのは不思議な現象ではあるが、プラスワンで聞いた話しと通じる物がある。
幼子が残した念は、女性の方が敏感に感じ取るという特徴があるようだ。
私は静かに、痛ましくこの世を去った幼子に想いを馳せ合掌した。いつか無念から解放され、やすらかに成仏できる日がくるようにと願った。
「なになに。やだなぁ。今度からここ来るの怖くなっちゃうじゃない」
合掌する私を見て、男性はそう笑いながら言うと、じゃあもう失礼するねとトラックに戻り運転席に乗り込んだ。
私はそれに向かって一礼してから、自分の車へと戻った。
さぁ、次はいよいよ犯人の男の家があった場所へと向かう。
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