オマケ

■あおまし

 一〇〇〇年前の文明で造られたDNAウイルスをモデルにした*1分子機械ナノマシン

「あおまし」という呼び名は、「ナノマシン」が転訛したもの。

 元々は樹木に感染して子実体を形成して増殖し、宿主から採取したアデノシン三リン酸(ATP)を胞子のように外に持ちだすものだった。採取したATPは給電所に回収されて発電が行われていた*2。

 しかし、太陽フレアによる電気文明の崩壊後は放置され、変異を抑制するものがなくなったことで、現在の〈あおまし〉と呼ばれるものに進化した。

 放置された〈あおまし〉は飽和し、樹木から得られるATPの絶対量が不足したため、ATPを増やすために樹木を巨大化させるように進化した。その後、樹木の巨大化による極相が形成されたのち、二度目の飽和を迎えたあおましは、自らが保有しているATPを消費可能な、〈灰泥〉と呼ばれる組織化形態を持てるように進化した。


*1:DNAウイルスのほうがRNAウイルスよりも変異率が低く安定しているためです。

*2:ATPによる発電の研究が実際にあります。

参考:https://www.riken.jp/press/2016/20160531_3/


■諦めた一族

〈あおまし〉を開発した科学者集団の末裔。

 科学者たちは〈あおまし〉を止めるために努力していたが、電気文明が崩壊した状態では不可能と悟り、「諦めた」。

 その後、自らの知識を人々のために活用しようとする〈貢献派〉と、科学者としての知的欲求に従い研究を続けたい〈研究派〉に科学者たちは別れた。しかし、次第に〈研究派〉は倫理観が薄れていき、人体実験などを禁忌としなくなっていく。それを知った〈貢献派〉は〈研究派〉と衝突し、戦争が起こった。

 戦争は〈貢献派〉の勝利で終わったが、その代償として様々な知識が散逸した。

 戦後の〈貢献派〉は自らの持つ知識が分不相応と知りながらも、科学を行ってきたものとして、それを捨てることができなかった。代わりに、自らの持つ知識を現代文明にそぐわない現象である〈怪もの〉にだけ使うことに決め、〈怪もの祓い〉の一族となった。

 疫病などによる全滅を避けるため、いくつかの隠れ里を作り、分散している。


胞衣えな

〈泥人〉を発生させる母胎の役割を果たす〈怪もの〉。〈泥人〉の本体でもある。集落に自身の端末である〈泥人〉を送りこみ、集落を発展させて最終的に自身の環境の〈生体通貨〉を消費しきることを目的としている現象。

〈あおまし〉が過剰に存在しており、〈怪もの〉を起こすほど安定していない〈灰泥〉の吹き溜まりで発生する。きっかけがなければ何もしない、『スワンプマン』の泥のようなもの。

 作中では、沼に発生した〈胞衣〉に赤子の死体が水葬されたため、しょうこという〈泥人〉が発生した。


■蜘蛛矢

 森の中を移動する狩人が使う道具。

 縄のついた矢のような構造で、手元のスイッチにより鏃の部分に仕込まれた返しが開閉する。これにより、矢を木に撃ちこんで固定し、振り子のように移動したあとに、返しを外して移動する。

 水緒は、これを幼い頃から玩具代わりに森の中を移動して遊んでいた。


■結晶キノコ

 樹木に感染した〈あおまし〉が作る子実体。

 青い非晶質の鉱物*1であり、主成分は二酸化ケイ素で、珪化木ウッドオパールに近い。

 樹皮からサルノコシカケのような形で生えている。内部では〈あおまし〉が自己複製して増えており、また外界に持ちだすための〈生体通貨〉の材料として、グルコースの液が溜まっている。

 固い鉱物で子実体を形成することで、動物や昆虫から捕食されないようにしている。


*1:オパールは粒子のサイズにより、プリズムのような遊色効果で色が変わるらしく、粒子の大きさの順に、紫<青<緑<黄<オレンジ<赤となり、青や紫が多いそうです。分子機械による機械的な成分生成なので、青色としました(逆に赤でも良かったのですが『蒼穹のファフナー』の結晶化現象みたいなビジュアルになりそうなので止めました)。

参考:https://www.gemstory.com/jyoukyu.html#opal7


もの

 本来はエネルギー消費として発熱しか行わない〈灰泥〉が、何らかのきっかけで複雑なエネルギー消費を行うようになった現象の総称。

 蓄えられた〈生体通貨〉を消費するためだけの機構であり、雲ができて雨が降り、やがて止むようなもので、現象としての目的=〈生体通貨〉を消費しきると消える。

 世界には〈あおまし〉が満ちており、エネルギー消費のための条件さえ揃えば、どこでも発生する現象であるため、その形態は多岐に渡る。

 怪奇現象であるため、その名は「怪訝なもの」や「怪物」に由来する。


もの祓い

〈怪もの〉を終わらせることを生業とする人間のこと。

〈怪もの祓い〉たちは〈怪もの〉の仕組みを解き明かし、その現象を終わらせることを現代文明の知識レベルに合わせて、〈祓い〉と呼んでいる。

 現代文明にはない科学知識が必須なため、〈怪もの祓い〉は《諦めた一族》の出身者しかいない。


■シカロ

 しょうこと水緒が暮らしている集落。

 近くに豊富な水があり、元々はその水を使って稲作を行っていた集落だったが、作中にある通り、現在は棄てられた集落となっている。

 森の木々が巨木となって土壌の水分を吸いあげてしまうため、水源は貴重であったこともあり、住民は外の人間に《シカロ》のことを知られるのを嫌い、排他的な体質の集落となっていた。


赤光しゃっこうの布

 一〇〇〇年前の文明を滅ぼしたものとして伝わっている現象。

 その正体は、巨大な太陽フレアで発生したオーロラ*1。一〇〇〇年前の文明は、太陽フレアにより電気文明を失い*2*3、復興中に変異したナノマシンによる樹木の巨大化が発生したため、当時の文明を取り戻せなかった。


*1:『明月記』にある「赤気」のように、大規模なオーロラが発生したとき、日本では赤く見えるそうです。

参考:https://news.yahoo.co.jp/articles/0daadff314ed8b50e059c6f8bdcc36ed4f1fb9e4

*2:観測史上最大とされている1859年に発生した太陽フレア「キャリントン・イベント」では、誘導電流によって電信網が自然発火するほどだったそうです。

参考:https://ja.wikipedia.org/wiki/1859年の太陽嵐

*3:2012年にもキャリントン級の太陽フレアが発生していて、それが地球に直撃した場合の被害は「完全復旧には4年~10年」かかると予想されていたそうです。

参考:https://wired.jp/2009/04/28/強力な太陽嵐で2012年に大停電?-対抗策は/


■生体通貨

〈あおまし〉が樹木から収集している物質。アデノシン三リン酸(Adenosine TriPhosphate:ATP)のこと。

 あらゆる生物の活動に必ず使用されるエネルギー源のため「生体のエネルギー通貨」と呼ばれている*1。また、〈怪もの〉の現象のエネルギー源でもある。

 元々、発電のためのエネルギー源として樹木からATPを収集するナノマシンが〈あおまし〉だった。


*1:「エネルギー通貨」で検索すると色々出てきます。

参考:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-008.html


■ヌシ

 死体から獣を模倣する〈怪もの〉。弱った土地=〈あおまし〉の少ない場所を豊かにすることを目的としている現象。

 自らが〈あおまし〉の回収装置となり、周囲に〈あおまし〉をばらまくことで森を復活させる。〈泥人〉と似ているが、〈ヌシ〉は〈あおまし〉を増やすことを目的としているのに対し、〈泥人〉は〈あおまし〉を減らすことを目的としているため、本質的な部分で異なる。


泥人ひじと

 死体からヒトを模倣する〈怪もの〉。過剰な〈あおまし〉のある環境から、〈あおまし〉を減らすことを目的としている現象。

 過剰な〈あおまし〉のある環境で発生する、〈胞衣〉と呼ばれる〈怪もの〉から発生する。 自らが〈あおまし〉の回収装置となり、人の生活に入りこみ〈あおまし〉をばらまくことで集落を豊かにさせて発展を促し、エネルギー消費量を増やして〈あおまし〉を減らそうとする。〈ヌシ〉と似ているが、〈泥人〉は〈あおまし〉を減らすことを目的としているのに対し、〈ヌシ〉は〈あおまし〉を増やすことを目的としているため、本質的な部分で異なる。


灰泥へどろ

〈あおまし〉が組織化し、自らの持つ〈生体通貨〉を消費できるようになったもの。

 単純なエネルギー消費として発熱を行うため、最も原始的な〈怪もの〉とも言える。〈灰泥〉自体は微小なため、その発熱量は環境に影響を与えるほどのものではない。

 何かしらのきっかけで、〈灰泥〉が複雑化したものが〈怪もの〉となる。


集落むら

 現在の人が集まって生活している場所の、一般的な単位。

 小さなもので一〇、大きなもので三〇ほどの世帯の集まりとなっている。

 現在の巨木化した森を開拓する技術がないため、ほとんどの集落は樹上に築かれている。木の枝と枝の間に足場を作り、その上に家屋を築く他、天然の樹洞があればそこに暮らすものもいる。また、旧文明の丈夫な建造物があれば、そこを基点にする集落もある。

 狩猟採集や野生植物の手入れをする半栽培で生活しつつ、近くの集落と交易を行うのが基本となっている。


■浪漫石

 ローマン・コンクリートのこと。

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怪もの祓い 黒石迩守 @nikami_k

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