第27話

 僕は少しカビの生えたパンに齧りつく。あまりの硬さに歯が折れそうになる。目の前には鉄格子。背後には汚らしい便器。仲間が死ぬと任務失敗の罰として投獄されるらしい。

「当然の報いなの……かな?」

 僕は一人言葉を零す。突然、横から金属音が反響。咄嗟に耳を塞ぐ。鉄格子を蹴った人物は座る。そのふてぶてしさからその人物の正体に気づく。

「唯愛も何かやらかしたの?」

 壁の向こうで沈黙、そしてため息。

「隊長――僕は雑魚が嫌いだ。特に調子に乗っている雑魚だ。勝手に突っ込んで勝手に死んで、挙げ句果てに助けを乞う。そんな雑魚が嫌いだ。より嫌いになった」

「やたら具体的だね」

 笑い事ではないと頭では分かってもちょっとだけ面白かった。

「殺したからな。この僕を殺そうとしたから殺した。馬鹿だったから死んだ」

 唯愛はもう一度、強く鉄格子を蹴る。あまりの蹴りの威力でこちらの鉄格子まで揺れる。僕の笑いは止まらなくってどうしても、止まらなくて瞼から溢れた涙を拭った。

「鷹也、笑いすぎだ。僕も少しは失敗したとは思ってる」

 唯愛はボソボソと言う。僕は安心して息を吐く。生きることが全て。本当にそうなのかも知れない。僕は唯愛に殺された人よりも唯愛が生きていたことに何よりも安堵してしまった。

「唯愛、つばめは?」

「僕の前に居るぞ」

 唯愛は興味なさそうに言う。

「……ノーコメントで」

 つばめの声が聞こえる。

「あのね……隊長。私は悪くないから。唯愛みたいに仲間と協力できなくて戦闘したんじゃないから。ただ、ただ――隊長、男って獣なんだよ。はぁー」

 つばめは大きく大きくため息をつく。

「――良かった。みんな生きてて。本当に良かった」

 僕が見ている床に一滴、一滴と雫が落ちる。

「馬鹿か……僕は死ねない」

「まぁ、私もそう簡単に死んだりしないから大丈夫だよ。隊長」

 僕は安心して瞼を閉じる。



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