第24話
「早い再会だな」
狼谷が僕に苦笑を浮かべる。太陽はまだ上がったばかりで微かに薄暗い。背負った銃器の重みを感じる。
「いやー、俺一度、鷹也さんと一緒に戦って見たかったんすよ」
犬飼が僕の肩に手を置いてくる。やっぱりこの場所にも八咫烏と同じ習慣があるらしい。戦闘員が食料の補給等を行うようだ。
「そんな男に関わってないで早く行きましょう」
狐坂が霧の先へと進んでいく。僕らは顔を見合わせて苦笑いをした。
「一つ伝えておくがな」
霧の中を小一時間ほど歩き続けていると狐坂がくるりと振り返り、眼鏡を自慢気にあげた。背負っている銃剣付きの狙撃銃が揺れる。
「君はもっと自らの幸運を自覚すべきだ」
「何の話?」
「分からないのか? 彼女たちの話だよ。君も分かるだろう。彼女たちの美しさが。烏末さんは無感情で無機質だがそれが――良い。あの美麗な白髪、人形のように精巧な顔立ち。だがだがだが真正さんも負けていない。あの人懐っこい笑顔を向けられたらどんな人間も恋に落ちずにはいられないだろう。そういうことだよ? 分かるかい鷹也君!」
狐坂が長々と両手を広げて演説する。僕は首を傾げる。つばめ達が綺麗な人だというのは自覚している。けど――。
「それがどうかしたの?」
「どうかした? だとぉ! 君は重症だなぁ! 君はあの娘達を侍らせてどっちつかずの距離を保ってるじゃないかぁぁぁ! 羨ましい!」
狐坂が強く唇を結ぶ。この人、頭良さそうに見えたけど実は馬鹿?
「ああー、そいつのはことは放っといてくださいよ。翔の奴、溜まってるすよ。あまりにも女にモテないもんだから嫉妬してんでしょ」
犬飼はあくび混じりに言う。
「……狐坂は常にあんな感じだ」
「何ですか! 犬飼もリーダーも! 僕は決して欲求不満なわけではない。美しいものを美しいと言って何が悪いんだぁ! 優柔不断な奴の背中を押して何が悪いというのですか! ラブコメを始めるんだぁぁ!」
「別に……あの二人、ただの仲間なんだけど」
「馬鹿な! あの二人の君への視線は本物だよ――特に烏末さん、いや烏末様なんて……」
狐坂はなどとよく分からないことをブツブツと言いながらずんずんと進んでいく。
「……気にするな」
狼谷が僕の肩を叩いた。気にしないようにしよう。きっと美人の仲間が居る代償なのだ。進んでいた狐坂が静止しこちらを振り向く。さっきまでのふざけた気配は消えている。
「……ゾンビです」
「了解」
「分かった」
犬飼と狼谷はすぐさま銃器を降ろす。短機関銃と突撃銃。僕は背負っていた銃器を構えた。
「作戦は単純です。俺が囮になるんで、鷹也さんは背後から殺ってください」
犬飼と僕は壁面から頭を出して前方に居る三体のゾンビを見る。集団で行き場もなくフラフラと広場を彷徨っている。
「ただ危険時以外は発砲しないでください。背後から銃器で殴りつけちゃって」
僕はコクリと頷く。いつもの銃器を床に置いて、そこら辺にあった小銃を拾う。
「じゃ……行きますか」
犬飼は堂々と壁面からゾンビたちに体を晒す。ゾンビたちはまだ気づかない。僕は姿勢を低くして柱に身を隠しながら回り込みゾンビ達に接近する。静寂の中に彼の足音が響く。変化は一瞬。ゾンビの一体が犬飼を視認。爆発の如く、突如、地を駆けた。犬飼は横にステップしてゾンビの突撃を交わす。そのままゾンビは壁に衝突、壁面が崩れる。ゾンビはブンブンと頭を振る。僕は恐怖を抑え込んで柱の裏から飛び出た。ゾンビが反応する前に背後に接近。空っぽの瞳がこちらを見てくる。口からは涎が垂れ地面に零れ落ちる。僕は銃器をゾンビの頭に振り下ろした。ぐしゃりとグロテスクな音が鳴る。ゾンビの頭から血が溢れる。すかさずもう二発、頭を殴りつける。
「あ……あぁおお」
ゾンビは体勢を崩し地面に這いつくばり。逃げようと這って動く。躊躇いなく頭を的確に叩き潰し、潰して、潰し続ける。顔に返り血が掛かり頬を拭う。鉄の匂いが鼻孔をつく。驚くほど落ちついていた。
「ナイスです。鷹也先輩」
犬飼は手を挙げる。僕は犬飼と手を打ち合わせた。周囲で狼谷と狐坂が倒れたゾンビを見下ろしている。ちゃんと連携できてる。つばめや唯愛ではこうはいかないだろう。息を吐く。ここでの生活もそんなに悪いものではないのかも知れない。振り向いて瞳孔が急激に開く。
「犬飼さ――ん……?」
頭のない胴体が鮮血を噴水のように撒き散らしながら――ぽてりと地面に倒れた。
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