第23話
狼谷が手続きをしてくれたお陰で僕らは名古屋に入るための許可証を手に入れた。これがないと入れないらしい。僕は緑色の線が入ったカードを持って仰向けになる。寝転ぶと床の冷たさが心地よい。
「本当に良かったのか?」
壁に背を預け唯愛が僕の瞳を見る。何のことかは聞くまでもない。
「良いよ。最初からそういう約束だった。天使ちゃんとはここでお別れだ。ここがどういう場所かもある程度分かったし」
沈黙が訪れる。きっと唯愛もつばめもこの街に半信半疑なのだろう。僕は瞼を閉じて、先程まで見ていた街の景色を思い出す。焼き鳥が普通に買えて、銃器を持ってない人が居て、ルールがあり犯罪が抑制されていた。八咫烏でも見たことない景色だ。烏ではお互いに牽制しあい争いを避けていた。殺されたくないから殺さない。単純な理屈だ。だから天使をここに預けるのは良い選択なのだ……きっと。僕は天井に手を伸ばす。
「ここが――楽園なのかな?」
僕はぽつりと呟く。皆が思い、皆が口にしないこと。
「……そんなわけない。ここは楽園なんかじゃ――ない。楽園であるわけがないんだ」
唯愛は憎悪を込めて強く、強く吐き捨てる。つばめの顔をちらりと見る。いつもの陽気な顔は消え顎に手を当てて真剣に考えている。僕の視線に気づく。
「正直……ちょっと不気味。成り立つわけないでしょ。こんな世界で。だって今できる社会ってきっと治安悪いよ」
つばめが冗談交じりに言う。乾いた笑い声。
「で、鷹也はどうするの? 残るの? 残らないの?」
「僕は……残る……つもりだよ。ここが楽園なら僕らの旅はここで終わりだ」
「鷹也、止めておけ。あの天使の言葉ではないが、どうせ碌でもないものを見ることになるぞ」
唯愛が沈痛な面持ちで言う。僕は何も言わずに寝返りをうち唯愛の視線から逃れる。分かっているのだ。そう簡単に楽園なんて見つからないってことぐらい。けど――期待せずにはいられない。僕は弱いから。期待せずにはいられない。
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