第22話
男の体が扉を突き破って飛び込んできた。僕は反射的に発砲。鮮血が散り、飛んでいた体が床にあっさりと転がる。どくりどくりと床に血の海を広げる。
「死ん……でる?」
僕は男の目に生気の欠片もないことに気づき、扉の奥を見る。三人の男が立っていた。
「大丈夫、お姉さん方!」
人懐っこい笑みを浮かべた金髪の少年が無遠慮に部屋に入ってくる。背後からわずかな殺気。つばめだろう。少年の肩を大柄なスキンヘッドの男が握り止める。
「えっ! 何? 怖がらせるなって? 分かってる分かってますよーリーダー」
男は何も言っていないにも関わらず少年はウンウンと頷き意思疎通をする。
「翔君、あんまり無防備だと殺されますよ。彼女たちは随分と手慣れているようなので」
メガネをかけた男は何かを乱暴に部屋に放り投げる。先程橋の下で見た女性とその子供だった。苦悶に満ちた表情が貼り付いたまま死んでいた。僕は感情を押し殺して、銃口を彼らに向けたまま立ち上がる。
「貴方達は――誰ですか」
リーダーと呼ばれた男が他の二人を除けて前に出る。
「騎士団所属、狼谷だ」
狼谷と名乗った男は無表情で手を出す。僕も恐る恐る手を出しお互い握手を交わす。握っただけで分かる筋力と銃器への慣れ。
「君は?」
「鏡音鷹也です」
狼谷はこくりと頷く。
「こいつらは蛮族……だ。だから……殺した」
狼谷は死体の男の頭を軽く蹴る。僕は懐疑的な視線を彼に向ける。騙そうとしているのか、だって彼らは紛れもなくあの橋の下であった家族だ。それが蛮族?
「蜂って呼ばれてる曰く付きの蛮族でね。蛮族討伐を依頼して、指定した部屋に入った瞬間に爆破。それでも無理なら狙撃して殺す。たちの悪い奴らだよ」
金髪の男は頭の上で腕を組みながら言う。
「俺、狐坂翔。よっろしく」
狐坂はひらひらとこちらに手を振ってくる。
「で、彼らの処遇はどうします?」
眼鏡の男が狼谷に聞く。
「どうもしない」
「不干渉が基本だ。けど、手当ぐらいしてあげてもいいと思うけど……俺は」
狐坂はつばめの足を見て言う。
「そう……だな。来るか騎士団に」
僕は唯愛、つばめ、天使に視線を向ける。迷いはない好都合だ。
「よろしくお願いします」
僕らは七人で霧の中を歩く。前衛は狼谷達で後方に僕らだ。つばめは嫌そうに唯愛の肩を借りている。
「もぉ、ちゃんと仕留めないとー唯愛ちゃん」
「お前が無防備に窓に近づくからだろう」
二人で言い合いながら進んでいる。
「よっ、兄ちゃん」
いつの間にか狐坂が隣に並んで歩いていた。
「ありがとうございます。助けてくれて」
「気にすんな。こんな世界なんだちょっとばかし良いことしたくなるの日もあるさ。で、先輩はあの三人と良いことしたんすか?」
「良いこと?」
僕は首を傾げる。したことと言えばサッカーとバスケットボールぐらいだ。狐坂は僕の顔を見て呆れた表情をする。
「あれです。あれ。男と女、目と目があったらすることなんてえ決まってるでしょ」
「しっしてないから!」
僕は狐坂の意図が分かって大声で否定する。つばめと唯愛が訝しげな視線を向けてくる。恥ずかしい。
「えー、してないんですか。こんな世界なのに。明日死ぬかもしれないのに、やらなきゃ損ですよ。俺も先輩みたいに可愛い女の子とお近づきになりたい」
「可愛い……だけじゃないけどね」
僕らのチームの女性は物騒極まりない。
「あーやっぱ、強いですかね。特にあのスナイパーの女性はそんな感じします。けど、先輩がお願いすれば大丈夫ですよ。先輩、年上から好かれそうですし」
「あはは……ありがと」
僕は乾いた笑いを零す。歩き続けると日が暮れてくる。
「今日は、何処で寝るんですか?」
「問題ない。もうすぐそこだ」
狼谷が前方を指差す。暗闇と濃霧で満ちた視界に明かりが見える。太陽とは明らかに異なる人工の灯火。僕は息を呑んだ。
「街――ですね」
通路を生きた人間が行き交いする。大声で野菜を売る八百屋。屋台が焼く甘辛い焼鳥の匂いが鼻孔をつく。見上げれば高層ビルの中に明かりのついた部屋。狼谷達は僕らの前に出る。
「ようこそ、名古屋に」
僕は確かに楽園があったのだと確信した。
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