第12話
瞼を貫く光が眩しくて目を細める。一際強い風が吹く。大切に積み上げていた砂の城がちょっとだけ欠けた。草の匂いが鼻孔を刺激する。僕は過去の力にぶらりぶらりと突き動かされるブランコと周囲に安全のためにテープが貼られてたジャングルジムを見た。つまんない。僕はただひたすらに目の前に積み上げた砂の城を作り続ける。欠けた塔の天辺を周囲の砂で補強する。
「鷹也は芸術家でも目指してるの」
声が聞こえて後ろをゆっくりと振り向く。棚引く髪を押さえながら十にも満たない黒髪の少女が立っていた。今日は白のワンピースで艶やかな生足を風に晒している。
「お姉ちゃん」
「ん?」
姉は僕の言葉に頷きながら砂の城を見る。右目の泣きぼくろが可愛らしい。姉はひとしきり細部まで城を見て思い詰めたような息を吐いた。
「すごいね。鷹也は王様にでもなるのかな?」
姉はケラケラと誂うように僕の頬に指で触れる。この笑顔が好きだった。
「うん、王様になったらお金いっぱいかな」
「……そうね」
「じゃあ王様になりたい。王様になってご飯いーぱい食べて、それでそれでね――お姉ちゃんと結婚するんだ」
僕はできるうる限りの笑顔を姉に向けた。姉は少しだけ目を見開いて、クスリと儚げに笑った。
「うん、鷹也なら成れるよ。だってお姉ちゃんの弟なんだから」
「お金がない――ふざけたこと言わないでよ。先月も同じこと言って、押し付けたでしょうが!」
嫌いな女の人の声。僕と姉は家の前で立ち止まる。何かを殴りつける音が聞こえた。
「黙れぇ! お前が、お前が――悪いんだろうが! 金が入ってくる予定だったのに、お前の――」
「予定予定予定――もううんざり!」
耳が遠くなりそうな罵声が聞こえる。僕と姉はそっと扉を開けて入る。空っぽの靴のない玄関、靴を脱いで僕は部屋に上がる。ぎょろりとアイツの眼球がこちらを見た。
「どこ――行ってたんだ? こんな時に、お前の――誰がお前らを生かしてやってると思ってんだ」
父は僕に向かって右手の拳を振り下ろした。いつものことで、つまらないこと。僕は怒り哀しみも何もかも押し殺してただ立った。痛みはこなかった。
「はぁ、飛鳥? そんなに元気があるならお前が金稼げよ。せっかく育ってきたんだから――」
父は顔を嫌そうにしかめる。僕の目の前で姉が父の拳を止めていた。足は震えて、唇は真っ青。次の瞬間、姉の体が吹っ飛んだ。父が一歩一歩、倒れた、姉に近づく。嗚呼、また何もできない。そんな自分が嫌で僕は震える手をそっと倒れた姉に向かって伸ばした。憎悪だけは抑えられなかった。
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