第10話
「この道、もう少し先にもスーパーあるから」
「スーパー多いの、いいですね」
「まぁ駅前のが1番大きいし安いけどな」
「やっぱりそうですよね。今度それぞれ確認しに行きたいです」
「荷物持ちが必要な時は言ってくれ。俺の飯作ってもらうわけだし」
星川は事前の手続きに転入テスト、それに登校初日と、俺の家とほぼ同じ場所から何度か学校まで通ってたわけで、不安だと言ってはいたが道を教えることも必要なかった。なのでバス停の位置だとか、必要そうな店や公共施設の場所などを案内しつつ学校へと向かう。
ちなみに家から学校まで通うのに栄えている電車の駅周辺は通らない。駅までは家近くのバス停から停留所5つ。学校までは家から少し離れたバス停まで歩き、そこから停留所4つだ。どちらも徒歩圏内だけどバスを使えばかなり時間短縮できる。そんな距離だ。
「それでしたら、日用品も買いたいので、お休みの日にでも一緒に行ってもらえませんか?」
「いいよ。てか、そういうのこそ早めに済ませないとだろ。今日行けば土日だし、明日か明後日に行こう」
「それじゃあ、拓海君の都合の付く時に、よろしくおねがいします」
「おう。まだなんも予定入れてないしいつでもいいよ」
そう誘うと星川はすごい嬉しそうに、小さく腕をガッツポーズする。重い買物とか一人では大変だったんだろう。必要なものがあるなら自分のほうを優先してもらっていいんだけど。そういうところは随分と生真面目になったものだ。
……一緒に出かけるって言ってもあくまで必要なものを買いに行く手伝いだ。デートではないと自分に言い聞かせる。それでも、星川と久し振りに遊ぶと思うとウキウキしてしまうのは止められないが。
「おーい!おっせーぞ!!」
「わりぃ!」
途中のコンビニで真人と合流する。星川にも伝えてあるが、いきなり2人でよりは幼馴染で集ってる方が、変な勘ぐりもされにくいだろうという提案だ。それともう一つ、顔合わせもしときたかった。
「お兄ちゃん久し振りー!」
「真優ちゃん、入学おめでとう」
「えへへー、これで毎日お兄ちゃんと会えるね」
「流石に毎日は無理だよ」
「えーー!!」
スカートや短い髪を揺らし、その小さな身体を忙しなく動かして喜怒哀楽を表現する。同じ高校のブレザーを着ているけど、その小柄で華奢な体型、くりくりした目や顔立ち、可愛らしい声と、正直中学生……いやむしろ小学生ぐらいにしか見えない。
「お前なぁ、高校生になったんだから、もう少しお淑やかにしろよ」
「バカ兄貴は黙ってて!」
「はいはい」
真人が真優ちゃんの頭をくしゃくしゃと撫で、それを跳ね除けようとするも、身長と体格差で全く跳ね除けられずに子供のようにいやいやとする真優ちゃん。懐かしい風景だ。中学の時はよく見た風景だけど、高校に上がってからは休日この兄妹と遊ぶ時ぐらいしかみてなかったからな。
ちなみに真優ちゃんは、何故か俺のことは『お兄ちゃん』と慕ってくれるのだが、実の兄にはこんな感じである。真人は真優ちゃんを口では色々言うが、年の離れた妹のようにかまうので、それが真優ちゃんには子ども扱いされているようでむかつくらしい。
「ところでお兄ちゃん、そっちの綺麗な子はお知り合い?」
「あっとそうだった」
何時ものやり取りに和んでしまい忘れてた。久し振りの再開にどれぐらい驚くだろうか?そんなことを考えると早く見てみたくて、あわてて紹介しようと思ったところで、腕の袖をぐいぐいと強く引っ張られる。これ癖かなにかなのだろうか?星川の方を向くと、信じられないものを見たような驚きと興奮の顔で、すでに目が合っているのに袖を更に何度も引っ張られる。
「あのっ、あのっ!まゆちゃんが、かわいいままなんだけど……!?」
「『まゆ』じゃなくて『まひろ』です!って、私の名前知ってるの?会った事あったっけ?」
星川はあまりのことに、俺の袖をぐいぐいと何度も引っ張りながら俺と真優ちゃんの顔を交互に見る。そりゃそうもなるだろう、真優ちゃんの見た目は、小学校……彼女が引っ越した頃とほとんどかわってないんだから。
思った以上の反応に俺はにやけそうになるのを我慢して、とりあえず紹介する。
「真優ちゃん、星川さん……海羽のこと覚えてるか?」
「え!?もしかして……みーちゃん?」
「はい。……覚えてる……?」
真優ちゃんはまさかという表情へ変わり、星川のほうは少し心配そうに真優ちゃんの反応を待つ。
「みーちゃん!!久し振りだー!何で連絡してくれなかったのー?会いたかったよー!!」
真優ちゃんが感極まったように走り出し、俺の横にいる星川へ思い切り抱きつく。それを受け止めた星川も、驚きはまだあるようだけどすごく優しい顔になってそっと抱きとめる。
「まゆちゃんごめんね。色々あって連絡先聞かないまま引っ越しちゃったから」
申し訳なさそうに言う星川。でもこれは多分俺のせいなんだろうな。
4人で遊んでた頃はスマホなんて連絡手段はなかった。そして引っ越した後、俺がスマホを持たされるようになったころには星川とだいぶ疎遠になっていた。一緒に遊ぶことは多かったけど、星川と真人兄妹は俺を通じて一緒に遊んでて、家族同士の付き合いとかもなかった。
そしてあれだけ気にしてたのだ。俺が婚約破棄を言い出してからは星川からアプローチするのは難しかったのかもしれない。
「あーわるい。俺が連絡しなくなったからだな、それ」
「いえ、私も悪いんです」
「もー、そんなの会えたんだからどっちでも良いよー」
普段星川の話題なんてめったにしなかったけど、長いこと一緒に遊んでた仲だったんだ。やっぱり寂しかったんだろう。数年ぶりの再開に喜び合う2人に、よかったという思いと、また4人で語り合える嬉しさと、でもやっぱり少し心が痛む。
真優ちゃんは星川のことを海羽(みう)から『みーちゃん』、星川のほうは真優(まひろ)ではなく、最初に読み間違えた『まゆちゃん』と呼び合って、俺と真人の後ろにくっついてきてたものだ。
「おーい、とりあえず学校行くぞ」
「そうだな。真優ちゃん、クラスの確認とかもあるだろ?」
「そうだった!」
「引っ越してきたばかりなので、落ち着いたら遊びましょう?」
「うん、楽しみにしてる!」
そんな再会を済ませ、昔のように4人で学校へと向かった。
「ところで、まゆちゃんはどうして昔のままなんですか?」
「みーちゃん!?私ちゃんと成長してるよ!?」
「がはははっ、身長も数cmしかかわってないだろ」
「うるさい!バカ兄貴!ね、お兄ちゃんはわかるよね?」
「そ、そうだね……かわいくなってるよ」
「でしょー!」
真人のは言い方があれだが、俺が言うとかわいくなったを都合よく解釈して喜んでくれる。でもまぁ……やっぱり子供みたいでかわいい……なんだよなぁ。
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