第7話
「私のため……ですか?」
「ああ。あれって親同士で勝手に決めたり、小さい子供の口約束だっただろ?成長して付き合いも変われば、そっちで好きなやつが出来るかもしれないと思ったんだ。それで、あの約束のせいで星川さんが恋愛することを自制したりとかされたら、申し訳ないと思ってさ」
昔俺が星川のことをどれだけ好きだったか……なんてこっぱずかしい話は伏せ、星川のことを思ってしたことだけは伝えた。
「それで気を病ませたなら意思確認をしなかった俺のせいだ。そのことは謝る」
「じゃあ、実は私のことうざかったとか嫌いだったとか……」
「それはない!嫌いだったとかはない!昔は本気でお前のこと……好きだった……」
それだけは絶対ない。強く断言したけど、勢い余って余計なことまで言ってしまった。慌てて弁明しようと彼女に顔を向ける。そこでぎょっとする。相変わらず俯いたままの星川だが、その瞳から不意に水滴が落ちる。
一度こぼれ落ちた水滴はその量を増やし、そして決壊したようにポロポロとこぼれ落ちる。
「お、おい、大丈夫か?」
どうすればいいかわからず右往左往していると、涙を流しながら声を震わせぽつぽつと話し出す。
「ずっと……嫌われていたのかもしれないって……迷惑に思われてたのかなって……思って……だから電話もしなくなったし婚約も取り消されたのかなって……安心して……ひっく、うっ、うえぇぇん」
どうやら俺に嫌われていたのではと思ってたみたいだ。嫌われてない事が分かって安心したのか、星川は徐々に体を震わせ、遂にはわんわんと泣き始めてしまう。
良かれと思ったことが逆に彼女を苦しめていた……その事実に胸が苦しくなり、でも気の効いた言葉をかけることもできず、彼女に近付き少し躊躇いつつもそっと背中を擦る。
幼いころ、彼女が泣いてしまったらよくこうしてあやしていた。子供の頃と違い成長した彼女の体に無闇に触れるのも気が引けたけどこれしか思いつかなかった。
手で触れた瞬間、星川は驚いたのか体を硬直させたけど、背中を優しくなでてやるとタガが外れたように、更に体を震わせ泣き続ける。
椅子の背もたれの隙間、長い髪をなるべく触らないように、多分ブラがあるだろう位置らへんも避け、背中の下のほうを優しくなでる。体つきもすごい女性らしく、長い髪からはいい匂いがして、大人の女性になっているのを嫌でも実感させられてしまう。でも子供のように泣きじゃくる彼女は、もちろん女性的で綺麗だけど、子供の頃の彼女と重なり安心もしてしまう。
そして思い知らされる……あぁ……俺は彼女のことをまだ全然割り切れてなんていないんだなぁと……
自分のせいで泣かせてしまった申し訳ない気持と、また彼女の温もりを近くで感じることのできる喜びと、そんなぐちゃぐちゃな気持の中、泣きじゃくる彼女をあやし続けた。
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