第6話
初めて知り合ったのは何時だったか……小学校に入ったときか、保育園だったか……ただ仲良くなったきっかけだけは覚えてる。
「名前に『星』と『海』が入ってる!」
星川のそんな一声。2人とも自分の名前を漢字で書けて、同じ漢字が二つも入ってる。星も海も綺麗で好きだ……そんな大したこともない理由ではしゃいでた記憶。
そのときの楽しそうな彼女の笑顔は、今でも覚えている。
そこから星川とよく話すようになり、それに彼女は引っ付くように俺の後をついてくるようになった。俺もそれを邪魔だとか面倒だとかは思わなかったし、むしろ彼女の笑顔がたまらなく好きで、今思えば初恋とか一目惚れとか、そういうやつだったんだと思う。
その後は、同じ頃に仲良くなった真人兄妹と、よく4人でいっしょに遊ぶようになった。それはもう毎日のように近所で遊んでたな。
星川とうちの親は元々仲が良かったみたいで、家族ぐるみで付き合うことも多かった。親同士で将来結婚させようなんて話で盛上がり、知らないうちに許婚なんて関係になってた。
もちろんその頃は、それがどんな意味をもつのかすら分かってなかったけど、でも彼女は将来結婚できるんだってすごく喜んでて、俺もそれが嬉しくて、ガキの癖に結婚したその後なんかの話を語ったなぁ……
まぁ今となれば黒歴史すぎるけど。
星川の叔母さんはとてつもなく綺麗な人で、モデルかなにかしてて色んなところを飛び回ってた。叔父さんも仕事が忙しくて、そのせいで星川は俺の家によく泊まりに来ていた。俺も星川も一人っ子で、そのころの真人兄妹がすごい仲が良くてそれが羨ましくて、よく兄妹ごっこみたいなこともしてたっけ。
子供ながらに彼女のことが大好きで、大きくなったら2人きりで海に行ったり、もっとよく見えるところで星も見ようなんてデートの約束をしたな……
転機が訪れたのは小学生の高学年……5年に上がる前だったかな。叔父さんの仕事の都合で彼女が引っ越すことになった。
当時それはもうへこんだものだ。星川家は引っ越した後も両親共に多忙だったらしく、うちの親父も時を同じにして単身赴任することになり、会いに行くなんてことも出来ず。最初のうちはたまに電話で話したりもしたけど、まだスマホも持ってない時期だしだんだんとその回数も減り疎遠になっていった。
中学の入学したころだったか……その頃には彼女のことを思い出さない日のほうが増えた。そしてありがたいことに、こんな俺を好きだといってくれた同級生も現れた。
そこでふと、婚約だの許婚だのが彼女の枷になってるのではと思い始めた。彼女のことが好きだという気持ちはその時まだあったので、申し訳ないけど告白は断らせてもらった。でも彼女はどうだろう?あんな幼いころの親が勝手に決めた約束のせいで恋愛を楽しめなくなってるのではないか?
そんなことを思い始めた。
母さんから彼女がすごい綺麗になったと聞かされた時、叔母さんの血を受け継いだならさぞ綺麗に育って、明るく素直で可愛らしい彼女は男受けもいいだろう……そんなことを考えた時、今後何時会えるかもわからない彼女が、知識も思考も幼かったころの口約束に縛られるのはかわいそうだ……そんな風に考え付いてしまった。彼女には学生生活を満喫して欲しかったし、そこには恋愛だって含まれるはずだ。
もちろん他の男と仲良くする彼女を思うと胸が痛くなった。でも彼女のため……そう思い、どこまで本気か分からなかったが親に婚約の件はなかった事にしてもらうよう頼み、彼女のことを故意に忘れるようにして行った。
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