婚約破棄した幼馴染と再開したけど、俺はまだ彼女のことが全然大好きみたいだ

第5話

「いただきます！」

「どうぞ。大したものではないですが。私もいただきます」

　食器出し程度の手伝いはしたけど、星川は結局１人で２人分の食事をさっと作ってしまった。久し振りの幼馴染と突然２人きりの食事……という奇妙な状態に緊張や居心地の悪さもあったけど、空腹時に目の前にあるおいしそうな夕食の誘惑にはあらがえず。

　簡単なものなんて言ってたけど……多分揚げ物の唐揚げやコロッケが惣菜屋から買ったものだからなのかな。それでも何やら１手間加えてたみたいだし、サラダやみそ汁なんかはきちんと作ってた。高校生が作った食事として考えれば、十二分なものだ。

「どう……ですか？」

　心配そうに聞いてくる星川。

「んん……うん、うまいよ！簡単にでこんだけできるんだからすげーな」

　がっつきながら答える。今日はふりかけご飯か卵かけご飯か納豆ご飯か……そんな選択肢からメニューを考えていたところにこれだけの御馳走が出れば箸も止らない。

　母さんとは時間が合わず作り置きを暖めなおして食べることも多かったし、出来立てを美少女と一緒に食べるというのも、少し緊張はするものの味を美味くしているのではとか思えてきた。

　星川は俺の感想に少しほっとしたような顔をし自身も箸を進める。これだけ出来れば何を心配することがあるのかと思うのだが。まぁ知らない……とまでは行かなくとも、久しぶりに会った人に料理を振舞うとなれば、緊張するものなのか？彼女は少し箸を勧めると、また尋ねてくる。

「味とか、どうですか？」

「味？すごいうまいし、個人的には好みの味だ。これだけ美味いんだから心配とかしなくて大丈夫だよ」

「そうですか」

　美食家みたいに事細かに褒められればいいんだろうけど、もちろんそんなスキルは持ち合わせてない。でも自分の言える語彙の範囲で褒めてみる。別に嘘はついてない。味噌汁とかすごい好きな味だったし。それが伝わってくれたのか、今度こそ安心したようで食事を再開する。よかった。

「で、俺の食事を作るのが１人暮らしの条件ってのは？」

　星川が食事を終えて箸をおいたタイミングで、先に食べ終えてた俺は疑問を投げかける。星川は一呼吸置き説明する。

「こちらで１人暮らしをするに当たり、幾つか条件を出されていまして」

「なんでまた一人暮らしなんて？」

「それは……色々と家庭の事情がありまして……」

　さっきも言ってたけど、当然家族で戻ってきたものと思ってた。まさか一人暮らししているとは。理由を聞いたけど、星川は少し困った顔してそう答える。もう少し深く理由を聞きたいけど、家庭の事情といわれてしまうとそれ以上は聞き辛い。

「まず生活費を一部負担することになりまして。そしたら叔母様が、出張中拓海君のお世話をすればバイト代を出してくれると言ってくれたので、それに乗っからせていただきました」

「お世話？」

「食事もですが、家の掃除とか洗濯などもお願いされてます。家政婦の真似事にはなりますが」

　うちの学校は基本バイト禁止だがそう厳しくなく、きちんと届け出ればその限りではない。学校には一応家事代行のバイトとして許可をもらってあるらしい。

「聞いてないのだが？」

「聞いてないんですか？」

　一言も聞いてない。だが急に不安そうに表情を曇らせる星川に慌ててフォローをする。

「あー、もちろん母さんに確認とってからになるけど、俺の部屋に勝手に入らなければ断る気もないし問題ないよ」

「ありがとうございます」

　やはり断られるのではとでも思ったのか、星川は俺の回答を聞いて一息つく。

「それと、１人で居る時間をなるべく減らせとママから言われてるので」

「なんでまた？」

「防犯の意味合いと、あと変な男友達を作るなということで……」

「いや、俺がすでに変な虫だと思うんだが」

「いえ、拓海君は大丈夫なので」

　謎の信頼感が重い。昔とは違うんだぞ。

「防犯だって、夜遅くに帰るのは危ないだろ」

「借りている部屋はすぐ近くなので……見送りだけお願い出来ればと……」

「まぁ当然それぐらいするけどさ。でもそれ、もううちに住み込んじゃえばよくない？」

「それは……さすがに……」

　星川は顔をしかめ俯いてしまう。

「あーそうだよな、流石に小さい子供の頃じゃないんだしな。今のは忘れてくれ」

　失言だった。そうだよ、小さい頃じゃないんだから、昔の感覚で話すのはよくない。話題を変えようと思ったけど、星川は神妙な面持ちでこちらをじっと見てくる。真正面から見つめられると照れてしまいそうになるけど、なにやら真面目な雰囲気なのでそれは我慢して彼女の言葉を待つ。

「私も拓海君に聞きたいことがあるんですが……」

「ん？何？」

「それは……」

　少し……いやかなり言いにくそうに視線をさまよわせ、言い出そうとしては口を閉じ俯いてを何度か繰り返し、意を決したように口を開く。

「私のこと、嫌いですか？」

「へ？」

　突然の質問に、意図がわからずどう答えればいいのか迷う。

「えっと、どーゆーことだ？」

　人としてなのか、突然の告白なのか？それとも今日そっけなさすぎて、嫌われていると思われるほど態度が悪かっただろうか？兎に角、突然のそんな質問に真意が分からず質問で返す。

「婚約破棄の件……どうしてなのかなって思って……」

「あ……」

　そのことか……今なお俯いたままこちらの回答を待つ彼女に、俺はどう答えればいいかを整理する。