第4話

「あの……叔母様に聞いてませんか?」

「いや、食事は何か手を打っとくっては聞いたけど……」


 星川が食事を作りにくるなんて寝耳に水だ。というか


「え?星川さん、うちの母さんとやり取りしてるの?」

「はい、スマホを持ってからは……」


 何で知らないんだとでも言わんばかりに少しふくれた様にこちらを睨んでくる。睨んでもまぁかわいいだけなんだけど。


 いやいや待て待て!見惚れてる場合じゃない。母さんがたまに星川の近況など話していたけど、どんな中学に入っただとか、かわいくなっただとか、そんな差しさわりのないことだった。星川の叔母さんと、親同士の交流の中で知った情報だと思ってけど、まさか本人とやり取りしてたなんて。スマホを持ってからって、一体何時から!?


 せめて本人と交流してることぐらいは教えてくれてもいいものを……もしかしたら故意に伏せてたのかもしれない。


「と、とりあえず上がって……」


 玄関に立たせておくのも申し訳ないので上がってもらおうと思ったけど、そういえば今は俺1人……母さんでも居れば気にならなかったけど、流石に同年代の男の家にあげるのはまずいだろうか。


「あー、いや、今俺一人だから」

「叔母様に聞いてます。お邪魔しますね」

「あ…………どうぞ」


 室内に男女2人になることなど気にも留めず入ってくる星川。まあそっちが気にしないなら俺は別にいいけどね。別にドキドキとかしてないし。うん、してない。とりあえず重そうなので彼女が持っていたスーパーの袋だけ奪い取る。


「ありがとうございます」

「おう、気にするな」


 流石に最初は少しびっくりしたようだが、空いた手で髪をいじりながら照れくさそうにお礼を言うと、そそくさと上がってくる。何故だかこちらも照れくさくなり星川の前を先導するように先に進む。


 普通に玄関から廊下を移動すればものの数秒でリビングに付くんだけど、星川はキョロキョロと辺りを見回しながらゆっくり移動する。


「変わってない……」


 ぽそっとつぶやく星川。星川がこっちに居た頃は毎日のように遊びに来てたんだから、ノスタルジックに浸るのも無理はないか。


「家の中、案内しようか?」

「あ、ごめんなさい。大丈夫です」


 星川はキョロキョロしてるのを見られたのが恥ずかしかったのか、その後は無言のままリビングに入る。


「それじゃあ、夕食の準備します。勝手が分からないので今日は簡単なものになりますけど、大丈夫ですか?」

「それはかまわないけど、本当にうちで作るの?なにか母さんに言われてるなら無理に作らなくても大丈夫だからな?」

「いえ、料理は慣れてますし好きなので。それにこちらで1人暮らしをする条件の一つでもありますから。食費は出し合うように言われてますけど、二人分で作れば多分拓海君の今の食費より少なく済みますよ?」

「そ、そう。じゃあよろしく」


 置きっぱなしのままになっていた俺が買った食材と星川の買って来たスーパーの袋を並べて置く。星川はキッチンの中を確認するように眺めると、その後は調味料やら調理道具やらを確認しつつ、テキパキと食品を処理しだす。


 というか条件って何だ?色々聞きたいことが山ずみなんだけど、テキパキと調理を開始する星川の邪魔をするのも悪くて、リビングで星川を眺めることしかできなかった。


 うちはダイニングキッチンで、リビングから台所が見える。普段は母さんが作業している光景しか見てないけど、星川が料理をしている風景は、同棲彼女みたいなのを連想してしまい顔が熱くなる。テレビをつけて見てるんだけど、どーしても彼女の作業風景を覗き見てしまう。


 星川は星川で、気にしてない風ではあるけど時折こちらをチラッと確認してくる。こういうとき何か話し掛けるべきなのかもしれないけど、女性慣れしてない俺には気の利いた話題も出せず、それに突然の事すぎて山のようにあったはずの聞きたい事もまとまらなくて、ただぼーっと星川の調理姿を眺めて過ごすことになった。

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