第12話 窓際の吸血鬼
この日、俺は明石と一緒にいた。
約束のデートの日だ。待ち合わせ場所はは公園のベンチ。
ついさっき合流し自動販売機で買った飲み物に口をつけている。
「それで明石、話っていうのはなんですか?」
俺は明石に聞いた。
デートの待ち合わせ場所をここにして少し話がしたいと言われて二人でここにいる。
「この前、白瀬とデートしたんでしょ?」
「デートってなんのことです?」
俺はなんのことだかわからずそう聞き返した。
なんだか明石から怒っている雰囲気を感じる。
まぁ怒っているのだろう。
それなりに付き合いは長いので察することはできる。
「あの、明石さん? 怒ってます?」
「少し嫉妬してる」
と、素直に言われた。流石に自分より年上の女性、それも何歳も。
いやもしかしたらそれ以上の恋人に言われるとどう返したらいいのかわからなくなる。
「あー、黙って白瀬とお昼ご飯食べに行って怒ってるってことですか? それは、すいません、事前に言っとくべきでした」
素直に謝る。すると明石は言う。
「それもあるんだけど、よそよそしくなった」
「えっ?」
「最近、二人でいるときに和久が急によそよそしくなったから、白瀬に聞いたの、そしたら一緒にデートして食事して私のこと話して、まあ、白瀬が私のこと話したのは仕事の一環だから仕方ないけど、それでもどう言うことよ!」
「いや、それはよそよそしくなったって言われても」
「言われても何?」
「年上だしそれも何歳も」
「今まで通り接してちょうだい!」
語気強めに言われ、俺はすこしたじろぐ。
「は、はい」
「それと、どれくらい私のこと話聞いたのよ?」
きっと気になっていたのだろう。
ハッキリと彼女は聞いてきた。
「年齢は知らないけど、身体を乗り換える能力は聞いてる」
「それで?」
「自分よりはるかに年上だってことも」
「それで?」
「何回体乗り換えてるのかは知らない」
「それで?」
「あと、今の明石じゃない人間の明石については少しだけ」
「その話、聞いてどう思った?」
そう聞かれた、明石は気にしてるのだろう。
「人の命と身体を奪った私をどう思ったの?」
明石が一番聞きたいこと、そして、俺が一番言葉を選んで答えないといけないことだ。
「人間の明石さんは死の直前に今の明石に身体を乗っ取られたんだろ?」
「そうよ」
「それなら、仕方がなかったんじゃないか」
そう答えた。それが俺なりの答えだ。
「でも人の命を奪ってる」
そうだ、それでも人の命を奪ってることには変わりない。
「あー、仕方がなかったんじゃないか?」
「え?」
「だから仕方がなかったんじゃないか?」
「人の命を奪ってるのに?」
「ああ、亡くなりかけてた物心もついてない人の命で、しかも救えない命だったんだろ? それでも明石の両親は明石葵が今も生きてると思い込んでる」
「人を騙してるのに?」
「ああ」
「たとえ騙していても、明石の両親は心を救われてる筈だ」
そう思う。思うしかない。
「じゃあ、私がそう言う人間を狙って乗り換えてるって言ったら?」
「金持ちの大人の身体狙って乗り換えるよりは理解できる」
「そっか」
一言だけ短く答えた明石は少し黙ってしまう。
俺を見ていた彼女は、前を見て。
そんでもって、もう一度、俺を見て一言。
「お人好しよね」
「えっ?」
「さあ行きましょう」
「ほら早く」
そう急かされ俺は立ち上がった。
彼女は先を歩いていく。
後ろ姿の明石葵に俺は聞く。
気になっていたことを聞かなければならない。彼女の秘密のベールは剝がされたのだから、俺は明石についてもっと知らなければならない。
「なぁ明石、二つ聞きたいことがあるんだけど、聞いてもいいかな?」
明石は立ち止まって俺を見る。
「何?」
「明石って何歳なんだ?」明石は少し考える。
「教えない」
「じゃあヒントだけでも」
そう聞くと、明石はさらに考えるように顎に手を当てる。
「イエスキリストが磔にされてる姿を見たことあるって言ったら信じる?」
俺は驚き、目を見開く。
「マジで?」
「嘘かもしれないし、本当かも知れないし、冗談かも知れない」
明石と戯けて言った。
「それめっちゃ気になるから教えて下さい!」
明石は答える気がないと言わんばかりに言った。
「教えない。二つ目の質問は何?」
「二つ目に聞きたいことは名前で呼んでもいいですか?」
「なんで敬語なのよ?」
「いや年上だし、何歳かわからないし」
俺は戸惑いながら答える。
「ちなみに葵って呼びたいの? それとも別の意味での名前?」
「別の意味って、どういう意味だよ? 葵以外に呼び方なんてあるのか?」
「もともとの名前のことよ」と言われ、そうだ、そう言われるとそうだ。
「あぁそっか、明石葵以外に本名もあるんだったな」
「なに? 今頃気づいたの?」
「全く気づかなかった」
「抜けてるわね」
とくすりと笑い、そう言った。
「本名も気になるし、葵とも呼びたいし、できれば本名も知りたいし本名でも呼んでみたい」
そんなことを言うと明石は答える。
「葵って呼んでいいわよ」
揶揄うように続けてこうも言った。
「でも本名はまだ教えない」
「じゃあ葵、あーその、なんと言うか、これからもよろしく」
「ええ、よろしく」
そう言って俺と葵は歩き出す。
今日の予定は映画を見て、その後、明石の食糧になる予定だ。
少し太陽が眩しい、たしか吸血鬼って太陽苦手なんじゃなかったか?
本人に直接聞いてみよう。
好奇心くすぐられるこの人に直接聞けばいい。実物が目の前にいるのだから。
そういえばと俺は思い出す。
「なぁ明石、明石って今までクラスの座席、いつも窓際ばかり選んでなかったか? 吸血鬼って太陽が苦手なんじゃないのか?」
疑問に思ったことを聞いてみる。
「今の時代の日焼け止めは質がいいのよ。それに昔、牢屋みたいなところに閉じ込められてた時、ずっと鉄格子のはまった窓から外ばかり見ていたの」
「えっ? 今なんて?」
無意識に聞き返した。
「昔、牢屋みたいなところに閉じ込められてた時に、ずっと窓から外ばかりを見て自由になりたいと思いながら過ごしていたの」
俺は少し黙り込んでしまい、そして聞く。
「それ本当なのかよ?」
やっぱり、かなりの苦労をして生きてきたのだろうか、そう思いながら答えを待つ。
「本当かも知れないし、嘘かもしれないし、冗談かもしれない、どれなのか当ててみて」
葵は戯けるように言った。
「俺に嘘を見抜くような能力はないよ、、、」
「じゃあ、内緒」
本当なのかも知れないし、嘘なのかも知れないし、冗談なのかも知れない。どれが本当なのか、いつか教えてくれるかも知れない。
「じゃいつか教えてくれ、約束な」
「気が向いたら教えるってことでいいかしら?」
「気が向いてくれることに期待する」
そう言い、俺は明石の隣に並んで歩き出す。
「私のこと知って驚かなかった人間はいない、、、」
横に並ぶ俺に葵はそんなことを言ってきた。たしかにそうだろう、驚かないわけがない。
「嘘よ、一回言ってみたかっただけ」
続けてそう言ってきた。
「どれが嘘なのかわからなくなってきた」
「最初から嘘を発見する能力なんて和久にはないでしょ?」
「葵って、そう言う能力も持ってるの?」
「さあどうでしょう」
そう言いながら歩き続ける。
「もしその能力があったら、人間関係楽になりそう」
「苦労が増えるだけよ」
答える葵にこう言った。
「苦労が増える。か、そう答えるってことは持ってるってことだな」
一瞬、葵は言葉に詰まる。
「鎌をかけたわね?」
「これで葵の前で嘘がつけなくなった」
葵は俺の顔を見てふふふと笑う。
「見逃せる嘘は見逃してあげる。それにいつも能力を使っているっていうわけじゃないの、能力を使っている間は嘘くらいなら簡単に見抜いちゃう」
「それは助かる」そう答える。あれ?
「なぁ、俺は嘘について詳しくないんだけど、、、嘘には見逃せる嘘と見逃せない嘘があるのか?」
「さぁ、どうでしょう」
そんな会話をしながら葵も俺も歩いていく。
少なくとも、もう少しは、葵とやっていけそうだ。
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