第32話 扉の向こう

「ヤバッ!なにこれ!てかまじで部屋なんだけどー!」


 まじで部屋だった。


 教室の半分くらいに、机や椅子が高く積まれていて、手前の半分はくつろぎの空間になっている。


 おしゃれな間接照明が、フカフカの大きなソファー、食べかけのお菓子と飲み物の乗ったローテーブルを照らし出していた。

 くちゃくちゃになったクッションが、ついさっきまで、誰かが居た様な空気を醸し出している。


 ハンガーラックに掛かった制服、パーカー、ジャージ…

 体操着には室桝の名前が…


「まって!?てかミッチャンここに住んでる的な!?」


 ボンコを見ると戸棚を開けてグミを手に持っている。


 お菓子のストックや、メイク道具など諸々が入っている戸棚の下の方、ボンコの足元に本が並んでいるのが見えた。


 教科書やノートもあって、順番に見ていくけれど、薄い本は見当たらなかった。

 床に全部出して、中に挟まっていないか、ペラペラと一冊ずつ調べていると、頭の上にポコポコと何かが降ってきた。


「あ!まじゴメーン!」


 床にはスナックの袋がいくつも落ちている。

 白目で拾ってボンコに渡し、棚に滑り込んだポテチの袋を取り出しすと、奥の方が気になった。

 覗き込むと、くちゃくちゃな紙が張り付いている。


 取り出すと見覚えのある紙で…

 シワを伸ばして急いで開く。




 ◇◇◇◇

 夜が明ける前に、電車に乗ると戻れます。

 ◇◇◇◇




 みつけた…


 相変わらず…

 なんで分けた…


「ボンチッ!!!見て!!!」

「え!?ウソまじで!?やったー!!!」


 戻れる…


「だけど…電車ってまじ何処で乗るの?」


 そうだ…


 駅は無くなっていた。


「え待って!てか電車は駅に決まってんじゃん!」

「てか駅ないしー!」

「あるしー!」

「まじなかったしー!見たしー…」

「てか行ってみればいいじゃん!ぎやくにー!」


「え待って!なんかさっきより空明るくね!?」


 言われてみれば、明るくなっている気がする。


「ぎゃくに全然行ける系じゃね!?」

「てかアーシの自転車使えばいいじゃん!」


 キーホルダーの塊から自転車の鍵を引っこ抜いたフジミヤが、ボン子にふんわり放った。

 キャッチ出来ずに落ちるところを、代わりに自分が床ギリギリの所で受けた。


「ウェーイ!」

「ゲリピーナイスッ!」

「てかぎゃくにすごいじゃーん!」



 鍵をボンコに渡して、自転車置場へ急ぐ。


「ありがと!」

「サンキュー!」

「じゃあね!」

「急げー!」

「行けー!」




 扉を出ると、微かに夜が明けはじめていた。

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