第28話 踊場

「ぅわぁあぁぁぁぁぁぁ…」




 は……




「ボンちぃ…?」


「どうした…?」




「ボンコッ!!!?」


 え?

 え?

 え?




 気配が全く無くなって、心細さがじわじわ沸いてくる。


 踊場で倒れているのだろうか…

 まさか…

 居なくなってるとか…


 無音になった階段の前で、嫌な予感が広がっていく。



 踊場はいったいどうなっているのか…


 なんとか、この階段を上らなくては…




 必死に走った。


 何回も駆け上がった。


 でも自分にはやっぱり無理だった。




 どうしよう…


 くたくたになって途方に暮れていると、手すりに目が止まった。

 平均台の様な手すりに手を掛けてみると動かない。

 足を突っ張って、ロッククライミングみたいに横に進んでみたけれど、全く駄目だった。

 直ぐに力尽きて元の場所に戻る。


 今度は、手すりの上に腹這いになってみた。

 足で挟んで少しずつ進んでいく。

 体力の無い自分には、なかなか良いやり方だった。


 さっきのロッククライミングスタイルも酷かったけれど、この腹這いガニ股スタイルも大分酷い格好だと思う。


 誰にも見られたくない…


 左側を見ると、下の階へ続く階段からの高さに気付いて身がすくむ。

 高所恐怖症を騙す様に、薄目で手すりの一番上のギリギリまで来る事が出来た。




 なんで…


 踊場いっぱいに大きな穴が2つ開いていた。

 穴は真っ暗で、中がどうなっているのか分からない。

 底が見えなくて深そうだった。

 ボンコは穴に落ちてしまったのだ。

 穴の底で、怪我をして動けなくなっていたらどうしよう…


 早く助けなくては…


 大変な状況になってしまった。

 焦って手すりから降りると、足を階段に乗せてしまって…


 スーッと一番下まで戻った。


 うぅーーーーー…


 へこんでる場合ではない。

 めげずに、また、薄目ガニ股で手すりを這って行く。




 階段と穴の間、ここもまた平均台程の幅しかなかった。

 そこへそっと足をおろすと、疲れきった足と運動神経の悪さと高所恐怖症の相乗効果で、ぐらぐらとよろけて階段側へ…


 スーッと一番下まで戻った。


 もーーーーー…


 牛になっている場合ではない。


 めげずに、また、薄目ガニ股で、手すりを這って行こうと思ったのだけれど…


 駄目だった。


 めげた。


 泣きそうだった。

 もう、腕も足も力が入らなくなっていた。

 どうせ自分にボンコを助ける事なんて出来ない。

 腹這いガニ股で、手すりに顔を突っ伏した。


 だけど、この事を知っているのは自分しかいないのだ。

 行くしかない。

 ずりずりと這い上がる。


 でも行くって…

 どうやって…

 ロープが無いと無理かもしれない。

 ロープは何処かにあるのか…

 ロープを垂らして…

 それからどうやって…


 やっぱり無理だー…




 でも…

 ボンコが助けを待っている。

 やっぱり行かなくては…

 ずりずり進む。


 グダグダとくじけたり、思い直したりしながらも、なんとか踊場まで来た。

 今度はそっと降りて、直ぐに膝をついた。

 どっちの穴に落ちたのだろう…


「ボンちぃーーー!!」


 手前の穴に呼び掛けてみたけれど、返事は無い。


 手をついて、もう一方の穴へ這っていくと、滑って片腕を穴に突っ込んだ。


 ぶわーっと汗が出て全身が冷えた。


 危な…




 フーーー…




 ん…


 穴の奥、手の届く所をベタベタ触ってみる。

 滑らかで斜めになっている様な感触があって、滑り台が思い浮かんだ。


 穴から手を出すと、テカテカと何かが付いていて、いい匂いがする。


 オッサン…


 キラキラ輝く小瓶を見せつける、キラキラしたボンコの顔を思い出した。


 こっちだ…


 ボンコが落ちたのはこの穴だ。




 どうしよう…


 こわい…


 でも…


 行かなくては…


 この中にボンコが居る。




 大丈夫…

 滑り台になってるから…

 大丈夫滑り台滑り台滑り台…


 自分に呪文をかけて腹をくくる。


 穴に向けて体勢を変えようとした時、突然、鏡に反射した光が眩しくて目を細めた。

 瞬間、足がもたついて左の穴へバランスを崩していった。

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