第26話 音楽室

「ゲリピーおひさ~」


「ミッチー!?」


 ピアノを弾いてたのはミチだった。


「本当の姿わかった?」


 へ…?




 ポコッ


 後ろで音がして、振り向くとボンコが床に転がっている。


「ボンコッ!!!」


 慌てて駆け寄ると、ボンコの腹にグミが置かれていた。


 ポコッと起きてグミに気付くと、間髪いれずに袋を開け、ポコポコと口に入れていく。


 生き返ったボンコがサッと椅子に座ってグミに専念しだした。


「ボンチ大丈夫……だね…」


 ピアノを見るとミチはもう居なかった。


「グミ…ミッチーに貰ったの?」

「え!?ゲリチがくれたんじゃないの!?」

「今、ミッチーがピアノ弾いてて…」

「そうなんだー!ミッチャン帰った系!?ウチ寝てた!?」

「んー…音がして…見たら床に…転がってて…」




 さっき…

 ミチは何か言っていたけれど…

 何て言っていたのだっけ…


 廊下に出てみたけれど、ミチはもう居なかった。




 ボンコは、スカートに差し込んであった薄い本を机に出した。

 座っていて邪魔になったのだろうか…

 腹の形にポコッと曲がっている。

 真っ直ぐ伸ばそうと手に取ると、裏表紙の小さな朱色が気になった。


 ハンコ…


 なんて読むのだろう…

 迷路の様な書体でよく分からない。


「ボンチ…コレ分かる?」

「しつじゃね?教室とかの!あとこれはー…木?…ます的な?」


 ………室…桝…


「え…ムロマス…なんでミッチーのハンコが押してあるの…」

「え!?てかなんでこれがミッチャンのハンコなの!?ぎゃくにー!」

「え…だって室桝って珍しいから…まあ…ミッチーじゃなくて親戚の誰かとか…?」

「え!?てかミッチャンってムロマスさんなの!?ウチまじムラマツさんだと思ってたー!ウケるー!」


 ムラマツ…




 この本…

 ミッチーか、室桝一族の誰かが作ったのだろうか…


「てかこれってどういうメロディだろ!?演歌系みたいなー!?」


 メロディ…


 ボンコがピアノに向かって、演歌っぽいメロディを弾きだした。


「ゲリチ!歌って!」

「え…ムリムリムリ…」


 ボンコが即興で弾いているメロディに、合わせられるわけがない。

 それに、歌を歌うのは苦手だ。

 人前で歌うなんて絶対無理。

 声も通らないし…

 恥ずかしくて禿げる。

 注目されるのは、とにかく嫌で、授業中に発言するのも苦痛だった。


 ボンコの隣に行ってみると、譜面台には少し曲がったナナ節の薄い本が置かれていて、ナナ節の後ろにちゃんとした古い楽譜があった。

 ミチはこれを弾いていたのだろうか…

 何の楽譜かよく分からないけれど、そのまた後ろに何かあって、見えている端っこを摘まんで、スーッと引き出してみると…


 薄い本だった。

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