第23話 本棚

「え…これって…」

「ヤバーッ…てかまじキモいんだけどー…」

「初めて見たかも…」


「ナ…」


「まじなんか言ってるしー…てかウィスパー系なんだけどー…」


 ボンコが本棚に近付いて行った。


「ナイゾーガ…ナイゾー…」


「あー…まじで有名なセリフ言ってるしー…」


 有名な…


「うちの学校…人体模型無かったよね?」

「え?ジンタイまじあったしー!」

「無いよー見たことないもん…」

「ウチ見たしー!てか実験室じゃなくてー!ぎゃくに別のとこーみたいなー!」

「ふーん…」

「え?てか待って!?ジンタイ居なくね!?どこ行った!?」


 本の上の隙間が抜けて、向こうの本棚が見えている。




 ハッ!


 ボンコの後方で、本棚から半分だけ人体模型が覗いている…


 そっと後退りしていると、ボンコが気付いて後ろを見た。


「ナァーーーッ!!!」


 逃げて行くボンコを追って、自分も走り出したけれど、足がもつれて転んでしまった。

 振り返ると、人体模型は本棚の陰からスーッと出て来た。

 内臓と顔半分、とくに丸出しになった右の眼球の不気味さに顔が歪んだ。

 何処を見ているのか分からない目玉は、今にもこちらに意識を向けてきそうで、体が強張る。

 こちらに向かって来るのを、四つん這いで必死に逃れようとしていると、足元に付いているコロコロが音をたてて近付いて来た。


 ううっ…


 人体模型はキュルキュルキュルキュルと、焦る自分の横を通り過ぎて行った。


 へ…


 キュルキュルと図書室を出て、廊下の先を走るボンコに向かって行く。


 あっという間に追いついて…


「ゲリチッ!こっちっ!………………!?」


 ボンコが振り向き様に、人体模型を掴んで固まった。




「ンナァーーーーーッ!!!」


 ボンコアンドジンタイは美術室へ入って行った。




 慌てて駆け付けると、2人は美術室の隅を時計と反対回りに走っていた。


 こ…

 これは…

 いや…

 スピードが…

 残念ながら戦力外だ。


 美術室の真ん中辺りに、何か塊が転がっている。

 駆け寄って手に取ると、早速、内臓が見つかった。


「ボンチ!有った!」

「まじ!?投げて!」


 ふんわり放ると、キャッチ出来ずに床に落ちた。

 カチャンカチャンと嫌な音をたてて、準備室の中へ転がって行くのを、ボンコアンドジンタイが追いかけて行く。


 これで一先ず落ち着いた。




「…ナイ」

「てかあるしー!」

「…ナイゾー」

「まじあるしー!」

「…ナイ」

「あるしー!!」


 え…


 準備室を覗くとボンコアンドジンタイが揉めていた。

 よく見ると内臓を頭に押し付けている。


「ボンチ…それ脳ミソじゃないよ…」

「え!?まじで!?」

「サイズ合ってないじゃん…脳ミソもう入ってるし…」

「てか模様がまじ完全に脳なんだけどー!ぎゃくにー!」


 模様…


「お腹!」

「え!?」

「腸!腸!腸!」


「あ!いい感じー!てかぴったりぎゃくにー!」


 ボンコがポコッと、腸をお腹にはめ込んだ。


 ああ良かった。




「…ナイ」


 え…


 ジンタイがボンコに詰め寄る。


「…ナイゾー」


 なんで…

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