第22話 ナ

「付いてるよ」

「えー!?まじでー!?」


 ギンギラにデコられた大きめの鏡をバッグから取り出した。

 ニッと鏡に映した歯と歯の間、全てに付いている。


 たこ亭にて、たこ焼きを食べながらの作戦会議。

 作戦が一つも浮かばないまま、食べ終わりつつある。

 どうでもいいような3冊の薄い本の事を考えていると、ガッカリした気持ちが戻ってきた。


 カドー3…

 ロン毛のベートーベン…


 全くの無駄足だった。

 なんで借りたのだろう…

 あれがヘアメイクの参考になるとも思えない。


 「てかやっぱー!走ったほうが良くなーい!?ぎゃくにー!」


 ボンコは、取り敢えず走って貰って、とにかく早く帰りたいみたいだけれど…


 取り敢えず走って貰って…

 取り敢えず上手く行ったら…

 取り敢えず何処かへ消えてしまう…

 それは…

 取り敢えず怖い。


 怖いけれど、他に作戦も何も思い付かないので、結局、学校へ戻るしかなかった。


 あと1人…

 誰に走って貰えばいいのだろう…






 ***

 校門を入って行くとチャイムが聞こえた。

 始まりなのか終わりなのか、何のチャイムなのかよく分からないけれど、取り敢えず教室へ向かおうとして…


 ボンコを止めた。


 校舎の外壁が変だ。


 地面からべったりびったりと、壁を登って行く茶色や緑が、2階の自分達の教室へ向かって行く。

 窓際の席でハチマキの白が見える。


「蛙…」


 ボンコが、不快満タンの顔で口元を両手で覆った。

 

 教室は危険だ。






 ***

 クラスメイト達多分…が、帰って行く所が図書室の窓から見えた。

 もう今日の授業は終わったみたいだ。

 先生が教室に溜まった蛙達を窓からぼたぼた落としている。

 なんとおぞましい…

 蛙まみれの姿を見て、顔に飛び付かれた時の感触を思い出す。

 ゾワッと鳥肌で立ち尽くしていると…


「ナ…」


 ナナフシ図鑑の有る、1つ目の本棚と2つ目の本棚の間、奥でボンコが何か言っている。


 ここは最初に自分は通ったし、時計回り説が合っていれば行けるはず…


 ボンコの所まで普通に行けて、試しに元の所まで行ってみると戻ることも出来た。

 往復可能だ!


「ボンチ!ここ行ったり来たり出来るよ!」

「……ナ…」


「え?どうした?動けないの?」


 ボンコが2つ目の棚を見て固まっている。

 死体顔ではないように見えるけれど…

 目線の先の、この本がどうかしたのだろうかと、棚に近付くと違和感があった。


 ん…


「……ナ…」

「え?何?」

「え?てかウチなんにも言ってないし…」

「え…」



「……ナ…」


「な…?」


 ボンコと同じように、棚を見て固まった。


「あっ…」

「あーっ!!!」


 本の上の隙間…


 この本棚の向こう側に誰か居る…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る