第15話 角

「かえーえってくレローぞーといさぁーまーしくーレロ…んーゲロッゲホッウエッホッカーッ…ナ-ナ-」


 ――下校の時間になりました早く帰りましょう。


 廊下でG4と一緒に、イチレツの歌唱が終わるのを待っている。


「ねえ…あの…ナナフシって…分かる?」

「分かるー!まじ虫ー!てか枝ー!」

「まじ細い系の虫みたいなー!?」

「てか細いけどぎゃくに昆虫的なー!」


「え…そっちじゃなくてロン毛のベートーベンの方なんだけど…」


「え待って!てかゲリピーそれって七不思議じゃね!?ハハハー!」

「ナナフシ!昆虫だし!まじウケるー!」

「ハハハてか1文字だけ略すとかまじ中途半端系なんですけどー!」

 ギャハギャハギャルギャハ…


 しまった…

 嵌められた気分だ…

 っていうかササクラが先に言ってたんじゃんっ!!!

 ぐぬーーーっ!!!


「てかさー!まじ教室走る系みたいなー!あったじゃん!?」

「あー…教室の角から4人同時に走るとまじ消える的なー?」


 まじ消える…

 ササクラ…

 家に帰れるって言って欲しかった…

 なんか怖い…


「それそれー!まじ今からやりたいんだけどー!」

「てかまじ…誰消すのー!?」


 消す…

 なんかやっぱり怖い…


「ウチアンドゲリピッピー!」

「オッケーッ!」

「フォーッ!」

「ウェーイ!」


 軽い…

 細かい事はスルーして、G4の会話はノリノリのテンションで進んで行く。

 この軽いノリで、今から自分達は消される…

 イエー…イ…


「ねえ待って!?てか2人一緒に消えたい的なー?」

「あっ!それだと人数足りなくない?ぎゃくにー!」

「てかまじ1人足りない系みたいなー!?」


 え?


「てか3人でもぎゃくにいける系とかー!?」

「3人だとまじ無理系かもー!」

「てか本見たら無理系かまじ分かる系みたいなー!?」


 本!?


「ササクラ…本って…七不思議の本?持ってるの!?」

「持ってないしー!てか図書!」

「てか図書のチョー角みたいなー!」

「まじ角まじ角ー!」


 トショ…


 今日は人数が足りないからと言って、3人はすぐに帰って行った。


 ササクラの話では、走っている4人の内側に居ないと消せないということだった。

 G4に走って貰おうと思っていたのだけれど、そうするとボン子は残って自分だけが消えてしまう。

 危なかった。

 今、ボン子と別々になるなんて…

 一緒にワラレテナイワールドンに戻れないかも知れない、という可能性に気付いて怖くなった。


 チョーカド…

 マジカド…


 この言葉を頼りにボン子と2人で図書室へ向かう。

 大丈夫だろうか…

 行けば分かるということだったけれど…


 図書室は自分たちの教室から見える、隣の棟の同じ階に有る。

 渡り廊下を渡ってすぐなのだけれど、その渡り廊下は水浸しになっていた。

 建物が古くて雨漏りするのは知っているけれど、今日、雨は一滴も降っていない。

 天井の真ん中から落ち続けている水滴を避け、廊下の端を通りすぎると、古い匂いがして図書室が思っていたよりも奥深く広がっていた。

 この中から一冊を見つけるなんて気が遠くなってくるけれど、とにかくボン子と手分けして各々探す。


 チョーカドマジカドチョー…


 図書室の隅を見ると、本棚自体が角に置かれていない。

 一番手前の棚の角を見てみるけれど、それらしき本は無い。


 その時…

 目に止まった本を手に取る。


 ぼのぼの…!


 開くとやっぱり消えてしまった。


「あー…」


 真っ白になった本をポンッと戻すと、棚の裏側でバサッと音がした。

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