第7話 ギャクニソー
「フー…」
セーフだ。
とりあえずセーフだ。
とりあえずもう帰りたい。
まだ1時限目途中だけど…
とりあえず帰って、ひとっ風呂浴びて寝てしまいたい。
そして目覚めたら全部夢でした。
という流れにしたい。
或いは、もう一度電車に挟まった方がいいのかも知れない。
あの瞬間、電車のドアがパラレルワールドに繋がったのかも知れない。
もうワケが分からなくて、そんな事しか思い浮かばなかった。
パラレルワールドて…
帰る気満々で歩いていると、ボン子がまだ廊下でボーッと座り込んでいた。
「ボンボン無事かー!」
「大丈夫…」
「ごめん…トイレ…もう少し時間置いた方がいいかも…」
「トイレ行かんし…」
なんだか元気がない。
ずっと聞きたかった事を聞いてみる。
「ねぇ…さっき…イヤホン食べてたよね?」
「は?ウチ食べてないしー」
「えーウソ…見たもんさっき…耳から取って食べてたし…」
「あー!だったらぎゃくに食べたかもー!」
逆に…
「てかイヤホンじゃなくてコレコレ!まじマシマロだし!」
ボン子がマシュマロを指でグニグニしている。
なんで耳にマシュマロなんか入れて食べているのだろうか…
絶対に止めた方がいい。
マシュマロの言い方が気になったけれど、細かい事はスルーして会話は進んで行く。
「てかもー聞きたくないし…みんな声とか違うし…ぎゃくにワケわかんなすぎてまじつらいんだけどー…」
ボン子が急に泣き出した。
とにかく分からなくて、辛いということを繰り返している。
自分だって分からない。
自分以外の知らない人達が、当たり前のように普通にしているのが途轍もなく不安で、自分だけが分からなくて孤独だった。
「てか教室入るのまじ嫌だしーぎゃくに顔とか違うからいっしゅんまじ誰かわからんし…」
えっ!?
「ねぇ…今…教室にいる人達、誰か分からんって言った!?」
「言ってないしー」
えー…
分からんって言ってなかった?
なんだよも~
「多分…誰かわかる…てか顔とかは違うんだけどーぎゃくにそーって感じ?」
ギャクニソー…
ずっと引っ掛かっていたものがスーッと落ちた。
上手く言えないモヤモヤをボン子が代わりに言ってくれた。
あの人達…
顔や声は違うのだけれど、中身は変わっていないというか、逆にその人っぽいというか…
多分そうなのだ。
逆にそうなのだ。
「ねぇ!逆にそうって…めちゃくちゃ分かるんだけど!」
「え?!まじ!?分かる!?ゲリリンも顔違って見える!?」
「見える!顔違う!」
「うわーーーんゲリちぃ!」
「ボンちぃ!うっ…うっ…」
仲間が出来た安心感から、2人で泣いた。
困惑や、孤独や、不安を抑えていた緊張が、限界に来ていた事に自分でも気付いていなかった。
パンパンに張った緊張に、ボン子がポコッと穴を開けて、そこから涙と一緒に全部、溢れ出てしまった。
同じ状況の人、理解してくれる人が居る。
1人居るだけで、こんなにも心が安らぐものなのかと思う。
「てかこれってぎゃくにまじワラレルワールドンだよね?」
ワラ…
せっかくの安らぎが、心からスーッと落ちた。
出来れば理解者は2、3人いた方が良いかも知れない。
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