第4話 With

 そうです。

 私がゲリピーです。

 小学生の頃からゲリピーと呼ばれている。

 わりと気に入っている。

 本当に。

 ただ、街中でちょっと離れた所から呼ばれたりする時は、他人のふりをする事もある。

 当時、自分も面白がっていたけれど、よく考えたらなんと酷いニックネームだろうか…

 子供って残酷だ。


「ゲリピー元気?あの今これなにしてんの?」

「今ねえ…なんかみんな家に帰ってるみたい」

「へー…んじゃああのみんな一緒に帰ろ!」


 多分ミチはよく分かっていないけれど、細かい事はスルーして会話は進んで行く。

 その時、仁王立ちスタイルの重山が高らかに宣言した。


「メンバーチェーンジ!ボンちゃん!ムロマス!チェンジーッ!」

「ほえ?わたし?」


 ムロマスミチが、突然の指名に驚いていると、重山が無言で教室の角を指差す。

 催眠術にかかった様なミチが、ふらふらと角に向かった。


 G3ジーサンウィズミチが、教室の四隅に各々スタンバった。

「全力で走ったら家に帰れるから!」

「……ふーん…わかったぁー」


 絶対分かっていないミチが、キョトン顔で教室の角に立っている。

 佐々倉が、腕捲りした。

 藤宮が、艶々ストレートの髪をゴムで縛った。

 重山が、ジャージの上に履いているミニスカートを脱ぎ捨てた。

 ボン子は…

 座ってグミを味わっている。


「いい?」

「いいよー!」


「よーいドンッ!」


 一斉に走り出す。

 ミチが恐ろしい程の瞬発力と協調性で、一瞬のうちにG3に溶け込んだ。

 4人の息はビッタシだった。

 なんだかアスリートの様な、4人の美しい走りに引き込まれてしまい、開いていた本をパタリ!と閉じた。


「ヤバー!ハァーハァー…」

「あー疲れるー!てか走るのひさびさなんたけどー!」

「なんかいい感じだったしー!」

「まじスピード合ってた!」


 息を切らして満足気な、G3ウィズミチを見ていて思う。

 教室の中をグルグル回っていないで、家の方へ向かって走れば、今頃、帰宅できているのではないかと。


「てかさぁ方向ちがくね!?」


 おー!

 それ!

 よく言ったミチ!


「時計と反対に回るだよー!それから角を合わせるの!」


 あー…

 七不思議としてはそうなんだろうけど…

 そういえば、元々この話はミチに教えてもらったのではなかったか…

 自分とミチはいつも赤点で、G4とは逆に最下位辺りをウロウロしている。

 追試の帰りは、2人でアホな話をして盛り上がっていた。

 そんなアホな話を、真剣に再現しようとしている人達が今…ここに居る。


「オッケー逆方向ね!」


 まだ走る気だ…

 元気。


「行くでー!」

「っしゃー!!!」


「サン! ニー! イチ! ハイッ!」


 ただならぬ集中力の、G3ウィズミチが走り出す。


「ハイッ!…ハイッ!…アイッ!…エイッ!…」


 集中力の無駄遣いだ。

 陸上部とか入ればいいのに…

 角に行くたび、オイとかウェイとか言ってボルテージが上がっていく。

 声がデカイよ~

 うるさーい!

 耳をふさいだ。

 キーンと痛くなって、ギュッと目を閉じる。

 唾を何度か飲み込み、耳から手を離すと…

 教室は異様に静かで…


 目を開くと誰も居なかった…

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