第2話

 私と双子の弟の翼は恋人同士だ。


 そう告白すれば、誰もが「気持ち悪い」と眉をひそめるだろう。


 だが私たちがお互いに求め、与えあっているのは共感と理解。

 癒しと安らぎ。

 それに、孤独を埋める温もり。


 水を与えられなければ花が枯れてしまうように、それがなければ心が枯れてしまう。

 人がひととして生きてゆくのにどうしても必要なものを、お互い与えあっているだけなのだ。


 でも、周囲は私たちの関係を許さないだろう。


 それが分かっているので、普段はあえて距離をおくようにしている。

 それでも同じ母胎を280日のあいだ分かち合っていた私たちは、言葉を交わさなくとも相手の考えていることが分かる。


 髪をかきあげたり、どこか遠くを見つめる眼差しになったり。

 片足にだけ体重をかける立ち方だったり、両肘を抱えるようなポーズだったり。


 そんな何気ないしぐさが、喜びや不安、期待や苛立ちを雄弁に物語るのだ。


 時には、相手が遠く離れていてもお互いの気持ちが分かることすらある。

 感情が、シンクロするのだ。


 だからたとえ一緒にいられなくとも孤独は感じないのだが、こうして一日中一緒にいられるのは、やはり嬉しい。

 朝、目が覚めたときから夜、眠りにつくまで、飽かずにずっと翼を見つめていられるのだから。


「そんなに見てて、楽しい?」

 いたずらっぽく笑って、翼が訊く。


「うん。飽きない」

「同じ顔なのに?」

「同じじゃないよ。

 翼のほうが肌に透明感があって、髪がサラサラで、まつ毛も長くて、瞳が琥珀こはくみたいで……」

 

 うっとりして翼の美点を並べた私に、翼はもう一度、いたずらっ子のような笑みを見せる。


「凛のほうが色が白くて、髪に艶があって、二重がぱっちりしていて……あとは、頭の形が良い」

「頭の形ってなに? それボウズにしなきゃ、分からないじゃん」


 言って、私たちは幼い子供のように声を上げて笑い合った。


 こんな穏やかな幸せが続くのならば、嵐なんて永遠に収まらなければいいのに。

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