第34話 救ってやる。人間も、魔族も
俺は徒歩や馬車も駆使して、北の開拓地を目指した。
魔力と体力を節約するためにも、高速移動魔法の使用は最低限に留めている。
見覚えのある懐かしい景色の中にいると、あの頃にいるように錯覚してしまう。
そしていよいよ当日。ベストなタイミングで、目的地に到着した。
「ここはなんにもない貧しい開拓民の村だぜ。わざわざこんなところまで、なんの用事だい?」
「ロンデルネス王国第6騎士団。国王リューベックの勅命を果たすために来た」
開拓村にやってきた騎士団に、若いドミナ系魔族が対峙している。
ゾール――前世の俺だ。あの頃は腕っぷしに自信があったのだが、今こうして見ると、あんなにも頼りなく見えるのか……。
「その勅命ってのは?」
「――死ね!」
ゾールは騎士団長に斬りつけられる。深手だが、すぐ身体強化魔法を発動させて距離を取る。
「ぐ、う、なぜだ!?」
「魔族は滅ぼせ!」
騎士たちが次々に剣を抜く。弓に矢をつがえる者もいる。
「ゾール! ゾール、死んじゃだめぇ!」
幼子のチコが走ってくる。弓の騎士が、彼女を狙ってる。
「来るな、隠れろチコ!」
ゾールは自らの体で射線を塞ごうとするが、間に合わない。矢が放たれる。
美しき女性が――フラウがチコを庇おうとする。
開拓民の中に紛れていた俺は、瞬時に飛び出し、その矢を素手で掴み止めた。
「なっ!?」
ゾールを始め、フラウもチコも目を見開く。
「フラウ、チコを連れて下がっていろ!」
「あなたは、誰……?」
混乱しているのか、フラウは動かない。
騎士たちは冷静だ。複数の射手が次々に矢をつがえる。
それを阻止しようと、ゾールが深手をおして
「お前もだ、下がれ!」
俺は魔力を操作して、魚を釣り上げるように、ゾールの体を強引に引き寄せる。
ゾールが足元に転がる。すぐフラウとチコがすがりつく。フラウが治療魔法を発動。
ほぼ同時に、無数の矢が放たれた。俺は広げた右手を突き出す。
「
高熱を伴う突風が、飛来するすべての矢を弾く。さらにその余波が騎士団を直撃。幾人かを押し倒す。そして軽度ながら火傷を与えたはずだ。
だが騎士たちは、何もなかったかのように体勢を整えると次々に剣を抜く。弓に矢をつがえる。
その動きに違和感を覚える。
いかに鍛え上げられた騎士といえども、俺の出現と反撃に、一切動揺しないどころか、まったく感情を出さないのは異常だ。
「ニルス、みんなを避難させろ! フラウ、早く行け!」
俺はひとまず、後方にいる
「人間の子? どうしてわたしたちを知ってるの?」
「なんなんだ、お前は……?」
フラウもゾールも、まだ混乱していて動きが鈍い。
「今はとにかく行け!」
騎士たちが続けて矢を放つが、俺は再び
3人はやっと動き出す。治療魔法を継続しながら、ゾールを引きずるように下がっていく。
これでいい。あとは、この騎士たちを皆殺しにするだけだ
接近してくる前衛の騎士どもを射殺しようと、圧縮魔力を込めた人差し指を向ける。
(カイン……どうして……?)
不意に、夢で見たアリアの泣き顔が脳裏に浮かぶ。発射を躊躇ってしまう。
「く……っ。お前たち、なぜだ!? なぜ俺たちを襲う!? お前たちは、ゼートリック軍の魔将討伐が任務だったはずだろう!?」
「魔族は滅ぼせ!」
騎士団長が有無を言わさず、剣を振り下ろす。
圧縮魔力を放ち、剣を折る。
騎士団長はやはり一切の動揺もなく、折れた剣を振るう。
「魔族は滅ぼす!」
「それが王の勅命か!?」
「魔族は死ね!」
「……まさか」
回避しながら、俺は自分の目に魔力を集中する。
騎士団長の体中に、魔力の糸が絡み付いているのが見えた。まるで操り人形のように。
団長だけではない。その他の騎士もすべてだ。騎士団全員が何者かに操られている。その魔力の糸がどこから伸びているのかは、巧妙に隠されている。
この人数を一度に操れるとは、魔力も技量も並大抵のものではない。おそらく魔王ゼートリック4世傘下の魔将だ。第6騎士団はそいつを討伐に向かい、消息不明となった。そのときから操られているに違いない。
「そうか。そうだったのか……!」
俺は魔力を込めた手刀で、騎士団長の糸を切断する。すると団長は白目を剥いて崩れ落ちる。
残った騎士団を睨みつける。いや、その向こう側にいる何者かを。
開拓民を含むドミナ系魔族は、ゼートリック系魔族と敵対関係にあると言っていいが、人間とはまだ戦端が開かれていない。
やつは、そこに火種を蒔くのが目的なのだ。
ドミナ系魔族が敵対すれば、人間はゼートリックとドミナの双方に戦力を割かなければならなくなる。ゼートリックの侵攻に都合がいい。
つまり、俺は! 俺たちは利用されたのだ!
そんなことも知らず俺は魔王となり、戦う必要もない勇者と戦ったのか?
「おい! 俺たちもやるぞ!」
フラウの治療で回復したゾールが駆けてくる。ひとりだけではない。ニルスも、フラウも、他にも少なからず戦いの心得のある者たちがやってくる。
「来るなッ! 人間の敵になるな!」
一喝して彼らの足を止める。
この騎士団は――人間は、敵ではなかった。
殺さなくていい。
アリアたちの敵にならなくていい……。
「それも、いいか……」
確かにアリアに雪辱を果たすのは俺の目的だ。だがそれは、あくまで俺たちの意思であるべきだ。利用された先での対決など、二度とあってはならない!
「救ってやる。人間も、
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