第13話 女性の話『ルナ・ムーティ』

「井戸…井戸…」

井戸を探して、歩き回っていると細々しい女性が、鳥の卵が入ったカゴを抱えて、私に話しかけてきた。

「キャンナ様とご一緒されていた方ですよね…?」

この女性もまた、声が掠れている。

「はい。そうです。あの、声、大丈夫ですか?」

「え、ええ。いつものことです。ごほっ、ごほっ、、、」

女性はカゴを抱えながら、咳き込み始めた。私は心配になり、駆け寄り、そっと背中に手を添える。

「…っ!」

細い…細すぎる…

身震いしてしまうほど、その女性は細かった。もう、筋肉や肉などない、ただ骨だけがあることを感じられる、そんな身体だった。

「ごほっ、ごほっ。すみません。最近、出るようになってしまって…」

咳を苦しそうにする彼女を見て、私は背中を摩ることしかできないことを悔やんだ。

「ふ、ふう。ふう。」

彼女は落ちつたのか、一息ついて、咳を治めた。

「ごめんなさいね。背中を摩ってもらってしまって。」

「それは、全然、大丈夫です。」

「そう。あなたはお優しいのね。そのね、話しかけたのは、あなた、井戸を探しているでしょう?そのことで。」

「さ、探してます!どこにありますか?中々、見つからなくて。」

「でしょうね。この村にはありませんから。」

「え?」

「あるのは、川ぐらいです。村のみんなは川の水を使って生活しているんです。」

「そ、そうなんですか!?」

「ええ。でも、最近、私たちが代々使ってきた川が急に、水が流れなくなったんです。それと同時に木の実や動物すらも、この村から消えていったんです。どうにか食料や水を蓄えようと、村長と男たちがスワラ街に向かって行ったんです。でも、それから帰ってこなくて、残っているのは、女性と老人たちです。そんな時に、この村を観光地にするとか、訳のわからない人たちが入ってきて、食事はそこそこ賄えるようになったのですが、それでも足りなくて、亡くなる人は多くなっていって、もう観光地なんかにはならないように思えるんですけどね。」

彼女は目を細め、何かに浸っている顔に変わった。



「私の子が亡くなったんです。」



その女性は、もう泣くこともできない、ただその現実に向き合う事しかできない事実に、震えていた。

持っているカゴの中には、木のおもちゃがいくつも、いくつも入っていることに私は気づいた。

「ごめんなさいね。こんなことを話してしまって、とにかく、井戸はないってことです。それだけです。失礼しますね。」

彼女は、作った笑顔を私に見せた。

「教えてくれて、ありがとうございます。」

私は、そう言うしか、他にはなかった。何か、他にいうことはないか、考えたでも、なかった。言えなかった。そんな考えを、巡らせていくうちに、あの女性はどこかへと消えていった。






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勇者のまねごと 茶らん @tyauran

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