第12話 始まった旅の途中で。『ルナ・ムーティス』
「ルナ、まずは、この街まで目指そうと思うの。どう?行けそう?」
キャンナが地図を大岩のところで広げて、ルナに尋ねる。
「スワラ街ですか…た、多分…」
結構、距離があるように思える。だが、キャンナは歩く気、まんまんだ。
「まっ、行けるでしょ!あんたは、あのバカ体力のあるシェーンの娘だしね。」
キャンナが懐かしそうに笑う姿を横目で見ながら、彼女は首を傾げて聞いた。
「あのキャンナ師匠。師匠は私の父と母のことを知っているの?」
キャンナは広げた地図を巻きながら、
「知っているわ。だって、私、勇者一行のメンバーよ。」
「へ?」
「言ってなかったっけ?私、魔法使いとして、勇者パーティに入ったのよ。」
聞いていない。彼女は知らなかった。キャンナは地図を馬の皮で作ったリュックサックの中に入れ、「よっこらしょ」と呟いて、背負う。
「えっと、その、一応、勇者の子とか言っていたから、何かしら知っているんだなとは思っていたけど、まさか、あの魔法使いのキャンナ師匠だとは…!」
「全く、あいつら、私のことをちゃんと教えなかったわね。もう。」
「でもエリナからは、何度か勇者パーティの話は聞いてはいたんです。」
「ふーん、エリナ…ああ、あの子か!まあいいわ。っていうか、さっきからルナ、敬語やらタメ口やらで言葉遣いがごっちゃね。」
「あ、えと。そうですね。」
「私はタメ口の方がありがたいから、タメでいきましょ。」
「は、はい!」
「ふふ。」
そんな会話をして、彼女たちは広い野原をひたすら、歩く。
キャンナから貰った鈴蘭が描かれたワンピースを身に纏いながら、髪は三つ編みで左右結び、歩く。
キャンナはとても魔法使いらしい服装で、まるでハロウィンで子どもたちが着ているような、そんな服を見に纏い、長く真っ黒な髪はおろしたままで、とても大きい帽子を被って、歩いていた。
ひたすらに歩いているときだった。
「あ……ああ…、魔女…さ…ま……です…か?」
掠れた声で喋りかけてくる老人が、杖をつきながら、所々にぽっかりと穴が開いた服を着て、頭を深く下げて、尋ねてくる。
「そうです。魔法使いキャンナ・グイダータです。」
「お、おおおお…キャンナ様に出会えるとは、なんたる幸運じゃ…」
「それで、何か用ですか?」
ルナは先ほどの枯れた声よりも、少し元気が出たような声に変わったなと感じながら、キャンナの隣で老人の事情に耳を傾ける。
「今、わしの村では……信じら…れ…ないほど……食べもの…が、なく…てじゃ…の…そ、いで…どうに…か…キャン…ナ様…に、助け…て…いただ…きた…く…」
この老人はあまり食べ物を食べていないのか、よく見ると、いや、今まで気づかなかっただけで、とても痩せている。服に開いた穴を少し覗くと、骨すらも見えるような状態だった。
「ルナ、少し寄っていきましょ。」
「うん。」
キャンナの選択した方向にルナも賛同した。老人がいつ倒れるか不安になりながらも私たちは、その老人の後をついて行った。
少しずつ、森の中へと入っていた後に、少し開けた場所があった。それがどうやら老人の『村』らしい。
「ここ…じゃ…少し、まっとくれ。」
そう言って、彼女たちを村の入り口で立たせたまま、老人は何処かへと向かっていた。
「ねえ、ルナ。この村、本当に危機的状態よ。走り回る子どもはいないし、歩く女性たちだって痩せ細っている。家もどうやら、亡くなる人が多いのか、放置されっぱなしで、とても汚れているわ。みんなが食べ物を求めているのね。」
キャンナは顔を険しくして、言った。ルナもこの村の異常さには気づいていた。なんだか、異様な匂いすらも漂わせてくる。
「師匠、私は何をすればいいのですか?」
少し不安になったため、彼女は師匠である者に聞く。
「まずは井戸の確認をしようかしらね。でも、担当の人が来るらしいから待ちましょ。」
「うん。」
しばらく待たされたが、ようやく、担当の人らしき者がこちらへと向かってくる。
「お待たせしてすみません…って、わあっ!本当にキャンナ様なのですね!このような村に来て頂いて、本当にありがとうございます。この通り、見窄らしい村ですが…」
そこで、キャンナは何か誤解しているのではないかと思い、彼に尋ねる。
「私たち、あのお爺様に食べ物がなくなって助けてほしいということなので、ここに来ました。何か誤解しているのであれば申し訳ないのですが、少し、この村を調べていただいても…?」
若く見えるその男性は戸惑う表情を見せながらも、
「すみません。手違いだったようなので、もう少し話を聞きに行ってまいりますので、この村でお待ちになっていてください。ちなみに宿はもう手配してありますので、お使いください。あそこにありますので。」
若い男性はそう言って、去っていった。
「少し、滞在しなければならなそうね…じゃあ、一度、宿で考えましょ。」
「うん、でも、」
「わかっているわ。その話は後で。」
言おうと思ったことがわかるのか、キャンナはルナを黙らせた。
二人は、宿へと向かい、宿屋へと入った。
「まあ!キャンナ様ですね。こちらの部屋になります。」
「ありがとう。失礼しますね。」
「いえいえ、とんでもありません!」
宿屋の受付として立っている女性は、とても痩せているが、まだ元気はあるらしく、彼女たちに明るく振る舞ってくれた。
「さ、少し、考えましょう。あまりにも事が進んでいくしね。」
キャンナは用意されたベットの上に座る。ルナも向かい側にあるベットに座る。
「ちょっと、面倒くさいことに巻き込まれたわね。食べ物だけを渡したり、育てたりするだけじゃ、問題は解決しなさそうね。」
「私、少し、感じたのですが、あの若い男性の方、全然痩せてないですね。むしろ、健康的な体つきですよ。ってさっき言いたかった。」
「ごめん、ごめん。あの場で言うと、ちょっとやばく思えたからね。誰かが私たちのこと、見てたっぽいしね。」
「え。」
「あら、気づかなかった?だいぶ見られていたわよ。」
「ウッソ!」
「ふふ。じゃあ、これから、少しスケジュールを立てましょう。確か、前もこんな出来事があったから、それを元に私は考えるわ。ルナは井戸の質を確認してきて。ちなみに、この村にある分だけね。あと、さっきのお兄さんに呼ばれても一人で行かないでよ?危ないわ。」
「わ、わかった。」
「呼ばれたら、私のところに必ず帰ってきて。」
「うん。」
「よし!じゃあ、見てきてね。よろしく。」
ルナは立ち上がり、ドアを開けて受付前を通り、外へ出た。
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