三章 咲き始める花(ルナ視点、テネブル視点、など)

第11話 記憶をなくした彼『プリスト・パーブリ』

「………」


わからない。わからないよ。なんなんだよ!




俺は、誰だよ?




彼は全てが消えた。何もかも捨て去られた。

記憶も、夢も、思い出も、呪いも、…

血が巡る脳の中には、なかった。


彼は、微かに残っていた記憶すらも、消え去ったのだ。





「テネブル!大丈夫か!」

いつも敬語を使うプリストさえも、そんなことは忘れ、ベットの上で呆然としているテネブルに声をかける。

彼がここに来てから、1週間が経った頃のことだった。

「………」

ひたすらに黙る彼をプリストは、苦しそうな表情で見つめる。

「情報は、確かだったんだな。ブラード。」

ボソリと悲しげにプリストは言った。

「テネブル…俺たちのせいです…私たちが、悪かったんだ…」

月が雲から顔を出したとき、起き上がっているテネブルの顔が照らされた。

「……!」

彼は驚くように、痛みを感じたのか、ベットの中に潜り込む。


今のテネブルには、1週間前とは大違いだった。

言葉が発せなくなっている。


プリストは毛布の中で震える彼の体に触る。

「テネブル…大丈夫です。私がいます。そんなに、震えないでください。」

プリストは月明かりが部屋に入ってこないよう、カーテンを閉める。

テネブルを撫で続ける。震えが徐々に治り始めた。


もう、この子は、光にすら当たれなくなっています。身体中に『呪い』が行き渡っています。本当に、ブラードの言う通りになってしまいましたね。しかし、長女のルナという子は生きているのでしょうか…あんな、村人全員が亡くなられた中で、彼女は生きて帰れるとは……いえ、そんな心配は要らないですよね…キャリアがきっと、…


「テネブル…」

テネブルが毛布の中から顔を出す。体からは黒い煙が湧き出ている。彼は、再び、震える。

「私がわかりますか?」

唐突な質問に彼は戸惑いながらも震えて、ただただプリストを見つめる。

「わからない…ですね…」

彼をこれからどうしていくべきか…

「少し、ここで休んでいてください。」

少しの間、彼を一人にさせた方がいいだろう。今は私自身に震えているのだから。

「これから、どうしようか…」



プリストは考える…彼の部屋を出て、台所の近くにあるテーブルに座り、ただひたすらに考える。













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