第10話 その背中は。『キャンナ・グイダータ』
風が、追い風が、彼女の背中を押すように吹き抜けていく。
彼女は振り返る。
彼女の後ろには必ずある。
『勇者の故郷』が。
彼女は黙る。今までの思い出を、ここに置き去りにして、旅立たなければならない。ルナは、震えている。
この背中は…あの時と似ている…
キャンナは、かつての『勇者』に似ていると思った。
あの時の勇者も、同じように震えていた。
あの時も…
「………」
勇者は黙っていた。いや、立ち尽くしていた。
「ブラード。」
勇者に寄り添うのは、いつもシェーンだった。
街が魔王の化身である『将軍ユーベル』によって、消されたのだ。街があったとは思えない、元からなかったと言えるくらい、綺麗な更地になっていたのだ。人間はもちろん、皆殺しだ。動物も虫すらも焼き尽くした。
しかし、そんなユーベルを、私たちは倒した。いや、私たちじゃない。
ブラード一人で、プリストの神様の加護を授けてもらいながら、一人で無双していたんだ。
私とシェーンはひたすらに見ていた。入って参戦!なんてできないのだ。圧倒的に彼らの方が上だから。
倒し終わった時、ブラードが倒れ込むと、一目散にシェーンが駆け寄る。プリストもだいぶ、体力を消費していたため、私が魔法で回復させる。
ちなみに、私が魔法で回復できるのに、それを勇者が選ぶことなく、プリストの神様の加護を選んだのは、私の魔法よりも神様の加護の方が圧倒的に強く、回復力があるからである。
「私は、使いものにならないってことね。」
ボソリと呟いてしまったのが、今でも思い出せる。あんなにも小さい声をプリストは聞き取っていた。
「そうでしょうね。」
「はあ?」
「あなたは世界で二番目に強いとされる魔女です。一番目は誰でしたっけ?」
「前も言ったじゃない、バカ。忘れないでよ、私の母親よ!」
「ですよね。ブラードに信頼されたいのなら、鍛錬あるのみ。ですよ。キャンナ。っていうことで、立たせてもらっても良いですか?」
「何を言うのよ。今、回復させたから大丈夫のはずよ。」
プリストの言葉は、本当によく私の胸に響く。言葉選びが上手いのか、ただただバカなのか、それは今になってもわからないけど。
「無理です、無理です、」
「全く、私の回復力じゃ、本当にダメなのね。」
「良いですから、鍛錬だと思って、私を立たせてください!」
「はいはい。」
そんな会話を繰り広げていると、シェーンがブラード背負いながらこちらにやってくる。
その光景があまりにも面白くて、私とプリストで笑ってしまった。でも、ブラードは街がなくなったことの衝撃で、顔が曇りに曇っている。
「街に出よう?二人とも。」
シェーンが落ちつた口調で言った。私たちは頷いた。その途端、プリストが自分で立ち上がる。
「はあ?あんた、マジで意味わかんないっ!」
「はははっ、さ、いきましょう。」
「回復してるじゃない!もう、バカ。」
街から出ようと言っても街なんてなかった。私たちは門だったところを潜ろうとした時、プリストが立ち止まり、街だったの方に向き直り、地に膝をつけて、
「光の神よ。どうか、どうか、この街の人々に安らぎの光を。」
プリストは天に両手を広げて、そして、その両手を地につける。
「どうか、この光でお眠りください。」
そう言って、立ち上がる。ブラードもいつの間にか、シェーンの背中から降りていた。
「3人とも、ごめんな。俺、少しおかしくなっていた。いつもはもう少し、冷静に判断できるはずなんだが。ごめん。」
「ブラードのバーカ。」
「はあ?キャンナ、そんな言い方ないだろ!まあでも、この人たちとの思い出は、これからの旅で、生かして(行かして)行くよ。だから、もう、浸らない。」
プリストがふふと不気味に笑った。
「勇者らしくなってきましたね。」
「お、おおう。じゃあ、旅を続けようか。」
「うん!」
「ルナ、思い出は残るものよ。大丈夫。大丈夫よ。私がついてる。ここが無くなっても、あなたの中には残って、これから、その思い出はあなたの大事な活動力となるわ。だから、その気持ちは忘れないで。」
少し、大人ぶってしまったか。そう思ったが、ルナを見ると、ルナはにこりと笑った。
「師匠、私、大切な思い出を生かします。」
「ええ。」
やっぱり、勇者の娘って感じね。
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