二章 自分を変えるために。(ルナ視点、テネブル視点、など)
第6話 私の村『ルナ・ムーティス』
夜だった。疲れているはずの体は『月の力』で動き続ける。
「はあ、はあ、」
何分、いや何十分、歩き続けたのだろうか。何も考えず歩くと、意外にも速く着いたようにも感じるものだ。
「…っ…」
言葉なんて思い浮かばない。ただ何もかもが消え去った。全ては、あの『悪魔』のせいだ。何もかも、あいつのせいだ。今でもあの悲鳴がこの村から聞こえてくるように思える。
村は、焼け野原だった。人が焼けた跡、村の全員がこの村から逃げ遅れた。子どもも大人も老人も。かつては、『勇者の村』と言われた村だ。今では、もう何もない。
私は、歩いた。『勇者の村』を。『勇者の故郷』を。
絶望を抱きながら、私は、ひたすらに歩いた。
泣きたいのに、泣けない。苦しいのに、清々しい気分でもあった。
『悪魔』を、『テネブル』を、怒らせたからだ。
村人たちのせいでもある。自業自得だ。
彼をそっとしてあげればよかったのだ。
彼を『人間』として扱えばよかったのだ。
私は、私は、彼をどう思っていたのだろう?所詮、村人たちと同じように彼のことは思っていたのだろう。
『悪魔』だと。
でも、それでも、私は彼を『弟』とも思っていたんだ。大好きだったんだ。彼の『本当の笑顔』が。大好きでたまらなかったんだ。
わかっていたのに、私は彼を蝕む『呪い』や村人の彼への『偏見』で変わってしまった。村人や魔王のせいだけではない。私自身も、そんな目で彼を、テネブルを見てしまっていたんだ。
今、考えると何もかもが私は、テネブルに対して間違った対応をしていた。もっと、もっと、『愛』を注いであげればよかったのに。
「テネブル…テネブル…!ごめんね、ごめんね…」
きっと、お母さんも謝ったのだろう。お父さんも。あのようになったテネブルに、『私たちのせいだ』と。自分たちが悪いと思っていたのだろう。きっと、きっと、私のこの感情よりも、もっと大きい後悔と苦しみを抱きながら。
そんな中でも、私を、テネブルを育ててくれた。
私の目の前には今、かつて魔王を倒した『勇者』とその仲間として支えた『格闘家』と私たちを育ててくれた『侍女』が立っていた。
「お父さん?お母さん?エリナ?」
それは、幻なのかもしれない。私が勝手に作り出したものなのかもしれない。3人は、私に向かってくる。そして、そっと抱きしめてくれた。
何も言ってくれない。でも、温かさを感じた。
「う、ううう…!逝かないで!逝か…ないで…お願い、お願い…」
それでも、3人は私からそっと離れた。そして、『侍女』が消える。『格闘家』が消える。最後、『勇者』は私の頭にそっと、手を乗せ、微笑みかけながら消えていく。
「あ、ああ…あ、お父さん!お父さん!」
叫ぶ、誰もいない、何もない、この地で、私は叫ぶ。足が震え、崩れるように倒れる。
眠る。
彼女は、疲れきっていたのだ。いくら『月の力』があるとはいえ、彼女は人間だ。
灰の匂いや人間の肉が焼かれた匂い、気が狂いそうな匂いを彼女は吸い続けていたのだ。
「ったーく、あの勇者は本当にバカね。自分の子にこんな重い『使命』を託して。もう、また私が助けるハメになったじゃない。あのバカ。」
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