ここ、瑠璃ヶ丘町は市街地と山岳のちょうど中間地点にあり、主に住宅街やアーケード商店街で構成されている。大きなショッピングモールや商業施設は、区画整理の際に市街地の方にこれでもかと建設されたため、瑠璃ヶ丘町に住む人たちは都市再開発のいざこざに巻き込まれることなく穏やかに暮らしている。

 休日になると、若者たちの中には瑠璃ヶ丘駅から電車に乗って、市街地に遊びに出る人も多くいるが、多くの住民たちは瑠璃ヶ丘商店街で交流を楽しんでおり、商店街はコミュニティの形成に一役買っている。

 希春はこの瑠璃ヶ丘商店街が大好きだ。小さなころから母や祖母に連れられて、よく買い物に来ていた。肉屋さんに行けば、ガラスケースに並ぶ大きな肉のブロックを指差して、ステーキが食べたいと駄々をこね、ケーキ屋さんの前を通れば、はためくのぼりにプリントされた新作のモンブランが食べたい、と泣いて頼んだりしたこともあった。病めるときも健やかなるときも、商店街はいつでも希春のそばにあった。

すべてではないにしろ、希春は商店街での思い出を比較的鮮明に憶えている。幼い頃の希春にとって瑠璃ヶ丘商店街は、おもちゃ箱のようにワクワクするものだったのだ。

そしてその感情は、今でも変わらず希春の中にある。そのため、初登校で緊張している希春の足が通学路として商店街を選ぶのは自然なことであった。

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